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そう言うと、駆け寄った僕の方を振り向いた。
「後藤……」
ぞっとしながら、その肩越しに半ばスクラップと化した乗用車の方を見やる。
「大丈夫だ、手足の骨折ぐらいしてるかもしれんが死んじゃいねえよ」
僕の表情を見て察したのか、後藤はそんなことを言って、肩をとんとんと叩いてくれた。
その瞬間、ずっとこらえていた何かが一気にほどけてしまった。
「後藤っ」
両腕をその背中に回して、胸元に額を押し当てた。
「奎吾。おい、どうした」
ジャケットからかすかに煙草の匂いがする。
「命拾いしたぞ。お前のおかげだ」
僕の髪の上を後藤の指が滑っていく。僕はその胸に埋めた頭を小さく横に振った。
僕は後藤が言ってくれたみたいに、優しくも、勇敢でもない。仕事の相棒に守ってもらったり、家族を傷つけたりすることしかできない。
魔法使いになったつもりで思い上がっていたけれど、本当は、雨の中で一人ぼっちで怯えているちっぽけなハリネズミでしかない。せっかく覚えた魔法も、使い方を間違えてばかりだ。
だから、誰かに傍にいてほしい。違う。誰かに、じゃなくて。
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