めぐる

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「いや、恥ずかしながら結構うっかりが多いから、日々綱渡りだよ。忙しすぎる時期は記憶がスッポリ抜け落ちていたりとか」 それは、狂犬と入れ替わっている時期の話だろうか。はたまた誰にでもあるちょっとした失念のことなのか。 迷った果てに、彩里は差し障りのない一般論を口にした。 「分かります。バタバタしていてつい漫然と仕事をやっつけると、後からミスしてないか心配になってしまいます。行動をイチから思い出そうとしても、驚くほど記憶に残ってなくてさらに不安になってしまうんですよね。こういうのって、どうすれば防止できるのでしょう」 「僕の場合は手帳にタスクをメモとして書き込んだり、細かく経過記録を取ることで何とか対応してるかな」 前に狂犬が『手帳にその日あったことを記録している』と話していた。人格間の引継書みたいなものだと。 日ごとのスケジュール欄に、どの取引先の誰に会った、どこまで仕事を進めたかを書き留めておく。 更には会った人物リストの名簿も控えてあるのだから磐石だ。落としたら元も子もないけど。 「どちらかと言うとこの物忘れ体質は、仕事よりプライベートの方が支障あるかも」 「えっ、そうなんですか?」 新たな情報が現れて、彩里は前のめりになりそうなのを抑えながら尋ねた。 「何より、迂闊に友達と会う約束を出来ないのが難儀だ。約束をした記憶を飛ばして、ドタキャンしてしまったら申し訳ないから」
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