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暗い夜道。人気の少ない住宅街の一画。
明滅する街灯に照らされた粉雪は、ストップモーションで撮影されたようにコマ送りに路上へ降りてくる。
酷く冷たい夜の中、男が一人。
薄っすらとした積雪に残された足あとを辿っていく。
辿る、というのは正確ではないか。
残された足あとにぴったりと足を合わせ、同じ歩みをしている。執念のようなものが滲んでいた。
真新しい丈の長いモッズコートは前をかき抱くようにして閉じている。
何か大事なものを抱えるようにして、雪道を行く。
ファー付きのフードを目深に被り俯いた表情は、下から覗き込まなければ伺い知ることができない。
白い息を吐きながら、僅かに視線だけを上げる。
足あとが細い路地へ導くように曲がっていた。
男の歩みが僅かに早まった。急かされる衝動と怜悧な理性が同居しているような、素早く静かな所作で路地へと体を滑り込ませる。
明かりが届かない路地。
その先に、男が求めていたものがあった。
男の表情が怒りに染まる。地獄の底から這い出てくるような低い唸り声を上げた。
閉じていたコートを解き、内に抱いていたそれを振り上げる。
それまでの慎重な足運びなど見る影もなく、乱雑で抑えが効かない足取りで目的へと駆ける。
明かりの届かない細い路地の中、男の手中でそれは鈍色の光を僅かに放つ。
その鈍色が夜闇の中で静かに、しかし鋭く、振り下ろされた。
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