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由樹は厳しい残暑が続く9月の青空と、その色に溶けるような藍色の懸垂幕を見上げた。
『断熱性能、ナンバーワン!』
「————」
思わず目が細くなる。
「…睨むな、睨むな」
隣に立つ篠崎が苦笑しながら見下ろす。
「そんな顔で展示場に来る客なんていねぇだろ?まあ、悔しいのはわかるけどよ」
言いながらその肩をポンと叩く。
「たて続けに3件も負けたんじゃ、なあ?」
クククと笑っている。
「……笑わないでくださいよ」
由樹は珍しくふいと篠崎に後頭部を向けた。
「まあ、お前も、負けて悔しがるようになったってのは、成長した証だ。胸を張れよ」
今度はその頭を強めに叩くと、篠崎は由樹の細い二の腕をむんずと掴んだ。
「せっかく県外の展示場までわざわざ来たんだ。大いに学んで帰ろうぜ?」
「————うう。はい…」
由樹は契約を断られた失望感を咀嚼しつつ、篠崎の後に続いた。
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