(続) 一度でいいので…【season③】

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由樹は厳しい残暑が続く9月の青空と、その色に溶けるような藍色の懸垂幕を見上げた。 『断熱性能、ナンバーワン!』 「————」 思わず目が細くなる。 「…睨むな、睨むな」 隣に立つ篠崎が苦笑しながら見下ろす。 「そんな顔で展示場に来る客なんていねぇだろ?まあ、悔しいのはわかるけどよ」 言いながらその肩をポンと叩く。 「たて続けに3件も負けたんじゃ、なあ?」 クククと笑っている。 「……笑わないでくださいよ」 由樹は珍しくふいと篠崎に後頭部を向けた。 「まあ、お前も、負けて悔しがるようになったってのは、成長した証だ。胸を張れよ」 今度はその頭を強めに叩くと、篠崎は由樹の細い二の腕をむんずと掴んだ。 「せっかく県外の展示場までわざわざ来たんだ。大いに学んで帰ろうぜ?」 「————うう。はい…」 由樹は契約を断られた失望感を咀嚼しつつ、篠崎の後に続いた。
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