8年目の殺意(5)信用

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8年目の殺意(5)信用

 柳沢は、勝ちを確信しているのか、余裕が見えた。 「何が聞きたい。いや、どこまで勘付いた?」  蘇芳が代表して、口を開く。 「8年前、駅で女子高生が盗撮被害を受けた。その子は被害届を出したが、犯人である柳沢さんは口封じをする事にした。官僚が盗撮だなんて、知られれば破滅だから。  それでその女子高生をひき逃げし、盗撮の被害届をもみ消した。  しかしその直後、うちの両親の車が通りかかった。  柳沢さんは、見られたのではないか、何か思い出すのではないかと恐れたんでしょう。うちに入り込んで、両親を心中に見せかけて殺した。  書斎を念入りに焼いたのは、写真とかが残っているとしたらそこだと思ったからですか。  そして今度は、私達と高山さんがその事故と事件を調べ直している事を知った。なので、高山さんを謹慎処分にし、警告の意味で弟を襲わせた――失敗でしたけどね。  次に警察へ引っ張ったのは、探りを入れて、尚且つ脅したかったのでしょうか。  で、今です」  萌葱達兄弟は柳沢をじっと見ており、柳沢も萌葱達を見ている。久保は、両者をキョトキョトとせわしなく見ていた。 「その通り。補足もいらないな。流石は望月先生といったところかな。  ところで、わからない事があるんだが。それがわかっていて、どうしてのこのこここへ来た?」 「柳沢さんの口から、真相が聞けると思ったからですよ」  浅葱が続いて言う。 「これに間違いはないんだな?柳沢。あんたが、女子高生を殺し、うちの両親を殺したんだな」 「ああ。そうだ」  柳沢は微笑みを浮かべて認め、久保は悲鳴じみた声を上げた。 「先輩、どういう事ですか?何で、そう、その銃は?かれらをどうするんです!?」 「兄弟揃って、死んでもらうんだよ。警察官に射殺されてね」  柳沢はそう言い、久保へ目をやって笑った。 「先輩!?そんな!」  それに浅葱は嘆息して言う。 「たぶんあんたの予想とは違うんじゃないか?柳沢は、俺達を殺す警察官は、あんただって思ってるよ。  そうだろ?」 「よくできました」  うその反応はない。どこにもない。柳沢の言った事は、全て真実だった。 「柳沢。それがわかっていて、何の準備もしてないと思うのか?取り上げられることを想定していたとは?」  蘇芳が言う。 「レコーダーを隠していたとしても、回収すればいいだけだ」  萌葱はポケットに差していたペンを抜いた。 「じゃあ、これは?カメラで、パソコンとつながってるんですが」 「はったりだ」  しかし、柳沢の視線は揺れた。 「うそをつきましたね。あなたはこれを、本当ではないのかと思った」 「何の根拠があってそんな事を言う」 「今拳銃を下ろして素直に捕縛されるなら、これ以上罪を重くせずにすみますよ」  柳沢は視線を泳がせ、息を荒くした。 「うるさい!俺はだまされないぞ!お前は、ただ、はったりを――」 「そこまでだ!」  声と共に、駐車スペースの方から、拳銃を構えた高山達警察官20名ほどが近付いて来る。振り返った柳沢の目を、彼らが持っていた投光器の光が射た。  何も見えなくなり、光を遮ろうと手を上げる柳沢に浅葱が飛びついて、殴り倒し、拳銃を蹴り飛ばす。  柳沢は、 「違う!誤解だ!私は嵌められたんだ!  あ、あの女子高生は、そう、私が警察官だと知っていて、盗撮をでっち上げたんだ。きっと他にもやってるんだ。示談金目的で!」 と喚き、その柳沢の上に萌葱は馬乗りになって、顔を正面から見据えた。 「うそ、うそ、全部うそですね。  ひき逃げは?」 「と、飛び出してきたんだ!話にならないからと、立ち去ろうとしたら!」 「うそですね。では、うちの両親は?」 「それは……それは……」  柳沢は完全に狼狽え、震えていた。 「もういい。あとはこちらがやろう」  高山が萌葱の肩に手をかける。 「今度は大丈夫なんだろうな」  浅葱が柳沢を睨みつけながら声を絞り出す。 「これ以上、警察の信頼を失墜させる気はない」 「証拠はどうするんです」  蘇芳も、声の震えを押さえて言う。 「全身全霊をかけて、揃えてみせる。約束する」  萌葱は真面目な顔付きの高山を見ていたが、 「わかった。うそはついてないから」 と、柳沢の上から下りた。 「いいんですか。これだけの事を、キャリア警察官がしたなんて」  蘇芳が皮肉気に言うのに、高山は肩を竦めた。 「悪い奴は捕まえる。それが警察だ。それに、これを隠蔽しようとしたら、それこそ、全国民からの信用を失うだろう?  やりとりは、パソコンに送ってあるんだろう?」 「はい。信用できる友人2人のパソコンに。何かあったら公表してくれ、それまでは中を見るなと言って」 「中を見るな?見るだろう?」  顔をしかめる高山に、萌葱は笑ってみせた。 「あいつらは、約束を守ります」
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