3209人が本棚に入れています
本棚に追加
仕事も頑張りながら式の準備も進めて、12月、職場最後の日を迎えた。
14時にいつも通り食堂を閉めて、お昼を食べようとすると、座ってと強引にお誕生日席に座らされて、奥から料理が盛り付けられたお皿が次々と運ばれて来た。
「このままお昼を兼ねてお別れ会だよ。食堂部一同、残念で仕方ないけど結婚なんてめでたい事では引き止められへんしな。一年間、一緒に働けて楽しかったよ。ご苦労様でした。」
藤田が言うと、みんなも口々にお別れやお礼を言ってくれて、水葵も頭を下げた。
「はい、結婚おめでとう。そして今迄ありがとう。お疲れ様でした。お幸せにね。」
糸井が代表で花束を差し出して、それを受け取ると涙が溢れた。
水葵が泣き出した事で困った糸井が慌てて口を開く。
「まぁ、あれだよ?駄目になったら戻って来たらいいんやない?寮はいつでも空いてるんやし。」
「縁起でもない!」
「そうや!いつでも戻っておいでね。」
「これから嫁に行く人にいう言葉やないわぁ。」
みんなで笑い、水葵も笑顔を見せた。
「ありがとうございました。皆様に助けられてなんとか頑張ってやってこれました。本当に…ありがとうございました。お世話になりました!」
深く頭を下げると、拍手が聞こえてから、パンと手を叩く音がした。
「さ!食べるよ!片付けまでが最後の仕事やからね。」
藤田に言われて、返事をしてみんなで食べる最後の昼食を味わって頂いた。
翌日には会社全体が年末の休みに入り、その日に荷物を配送業者に取りに来てもらい、次の日の午前中の新幹線で大樹の所へ戻る予定でいた。
その夜は台所に三人が集まって、最初の日の様に一人ずつ何か料理を作り、三人で食べた。
一年、本当にあっという間だった。
寮だけど個人の事には干渉しない様に言われていたから、一緒に出掛ける事などはなかったが、不意に台所で会ったり、誰かが体調を崩せば、残った二人が食事を差し入れたり、病院に付き添ったり、本当の一人暮らしではないから水葵には甘えかもしれないけれど、助け合って暮らす事はそれが他人同士でもとても温かい物だと再認識させられた。
その夜は遅くまで語り合い、楽しい時間を過ごして、二人に笑顔で見送られて、翌日、水葵は一年暮らした部屋を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!