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桜庭課長とわたし
オフィスの廊下の向こうから桜庭春樹が同僚と談笑しながら、こちらへ歩いてくる。
今日もスーツをビシッとカチッと抜かりなく着こなす桜庭課長は、鼻血が出てしまうのではないかと思うほどカッコイイ。
思わず歩みを止めて見惚れそうになって、それではあまりにもあからさまだと気を引き締め、口元が緩まないように表情も引き締めて歩き続けた。
わたしの姿を認めた桜庭課長の同僚・長谷川英作に「お疲れー」と声をかけられ、わたしも「お疲れ様です」と会釈してすれ違う。
その瞬間、桜庭課長の長い指がわたしの指先に絡まり、わずかに握られてすぐに離れていった。
お互い何食わぬ顔でそれぞれ進行方向を向いたまま目も合わさずに通り過ぎる。
もちろん顔を赤らめて振り返って後姿を見送るようなわざとらしいこともしない。
ただ、一瞬彼に触れられた指先の熱と、体の内側でうるさいほどに鳴り響く胸の高鳴りは、なかなかおさまりそうになかった――。
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