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大学一年生・初夏~秋
小学生の頃、嫌々習っていた水泳が、こんな形で役に立つとは思わなかった。
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大学一年生の初夏。ようやく大学生活に慣れてきた頃、少し気になる人ができる。
同じ大学の同学年の彼とは講義でよく会う。話したことはないけれど、一度すれ違いざまにぶつかりそうになった時の、感じの良い〝すみません〟にときめいて、それ以来姿を見かけるとつい、意識がそちらに集中する。会えると嬉しいとか、そわそわ落ち着かないこの感じ。おおこれは恋の予感と期待して、頭の中はすでにほんのりピンク色だった。
「ぶつかりそうになった時ってそんな、漫画じゃあるまいし」
「いいでしょ別に。すごくいい人そうだと思ったんだもん。実際いい人と思う。多分」
「いや、いい人そうって言うよりも、モテるでしょうね、若槻君は。爽やかだし」
高校からの友人ミユキが呆れたように笑う。
「で、どうするの?」
「ん、何? どうするのって?」
「だから若槻君の事。気になるんでしょ? 告白するとかつき合いたいとか、ないの?」
ボーッとしてると肉食系女子に捕まえられちゃうよ、と、散々焚き付けてくるけれど、あまりピンとこない。
告白、おつき合い、ねぇ……。
「とりあえず、自分を磨いておこうか」
「は?」
「だって」
部活を辞めてから直ぐに受験シーズンに突入し、育ち盛り。程よく気の抜けた身体は、恋愛仕様ではないと思った。
「とりあえず-3キロ。少し引き締まって、顎の辺りがスッとしたら考える」
目標は分かり易い方がいい。
なにそれと笑われながら、自宅から歩いて10分、自転車なら5分もかからない距離の、市の屋内温水プールに通い始めた。
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