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プロローグ ――Fantasie Impromptu――
第一音、Gのオクターブ。"その音だけ特に強く"。
それを叩き出した左手はそのまま六連符の繰り返しに移行し、やがて、追いかけるように右手が16分音符の主旋律を小刻みに奏で始める。
フレデリック・ショパン作曲 即興曲第4番 嬰ハ短調 作品66。通称「幻想即興曲」。
小学三年生の時に行った有名ピアニストのリサイタルで、初めてこの曲に出会った瞬間の衝撃は忘れられない。アレグロ・アジタート(激しく速い)のテンポにもかかわらず、右手と左手が刻むリズムが違うのだ。こんなことが出来るものなのか。ソナチネを終えソナタに入ったばかりの当時の私には、とても信じられなかった。
ショパンは「ピアノの詩人」「即興の達人」と言われている。彼のその二つの側面が存分に相まって生み出されたのが、この曲だと思う。まさに詩人の名にふさわしい、叙情感に満ちたそのメロディ。私は魅了された。以来、この曲を弾きこなすことが私の当面の目標となった。
この曲をこんな風に満足に弾けるようになったのは、中学に入ってからだった。今でも私にとっては自分のコンディションを確かめるための、鏡のような曲だ。「ショパン弾き」を自認する私の原点、と言ってもいい。
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