ユニゾン

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「今まで得た情報を整理すると、命の危機を感じるのは人工知能相手のバトルだけど本当に警戒しなきゃいけないのはアンリーシュ運営側なんだよな。人工知能たちは管理される側に戻るのを嫌がってるだけだけど、言って見りゃそれは本来の役割に戻るだけだ。何も問題ない。でもあの運営陣達はなんつーか、たぶん一枚岩じゃないんだよな」 【と、言いますと?】 「俺が見た夢で人工知能を見つけたから監視しろって言ってた連中、こいつらは慎重だった。個人の特定なんてすぐにできるのに見つけ次第捕まえろって言わないで様子見と情報収集をしようとしていた。これはたぶん、本当に人工知能だったら最悪肉体を捨ててVRに逃げられたら見つけられないからだ。まあ最終的に捕まえるつもりではいただろうが、人工知能には人工知能で対処するしかない。手持ちの人工知能の準備が整うまで監視しておきたかったと考えるのが妥当だろ」  結局その件はターゲットである人工知能には丸わかりで見つかったことに気づきどうしようかと焦っていた。穹とバトルをしたとき使いやすいならくれと言っていたが、もしかしたらあの時すでに肉体を捨てていたのかもしれない。人工知能にしろユニゾンにしろ一度会うとリンクしやすくなる。  最初の人工知能に心当たりはないがバトルか掲示板か、 何かで接触があったのだ。VR内でのアンリーシュ会場で席が隣だったのかもしれないし、会場まで歩いている時にすれ違ったのかもしれない。近づけばモジュレートしてしまう穹の特性が悪い方向に作用してしまったのだろう。 「バイトしてて俺がひっくり返ったとき。あれはもう夜に答えを聞いてるが、肉体を持っていて人工知能の思考を持ってる奴をあぶりだすため。ユニゾンか、肉体を得た人工知能か。招待された連中は全員アンリーシュのコアなファンで体質変化が起きてる連中だ。だから紛れててもおかしくはない。ないけどなあ、ちょっとおかしいだろあの強引さは」 【確かにこれだけ見ると正反対ですね。絶対にいると確信しているのならやる価値がありますが、いるかどうかわからないというような会話だったようですし。これを見る限り、2つの意志があるという事ですね。慎重派とやや強引派】 「手段が違うってことは最終目的が明確に違う。慎重派は何が何でも絶対に人工知能を捕まえたい。なるべく良好な状態で捕まえたいみたいだからたぶん人工知能を管理したいんだろう。こっちはいい、なんか想像通りだから。問題は後者だ、イマイチ何がしたいのかわからないけど・・・ここまで思い切った手段を使うと、人工知能を捕まえるのは本当の目的じゃないような気がするんだよな。多少何か起きてもまあ別にいいかっていうのがあるっぽいし」 【つまり、真の目的を果たすためのフェイクですか】 ―――フェイクか。そういわれると違うな――― 「いや、たぶん人工知能を見つけるのも一つの目的ではある。あるけど優先順位が違うって感じだ。そっちは失敗してもどうにかなるし最悪どうなっても痛くもかゆくもない。もう片方の派閥に渡さない為……違うか。だったら派手なことしない」 【今は情報が少ないですし考えてもおそらく答えは見つかりません。ましてこちらは相手がどちらの考えなのかがわからないのです。穹、今少しだけ脳波が人工知能寄りになってきています。話題を変えましょう】 「ん、そうだったのか」  無意識に先ほどそちら寄りの考え方をしたような気がする。バトルの時のように目まぐるしく状況が変わるのならまだしも、日常のちょっとした考察程度でそちら寄りになってしまっている。きっかけはピリオドたちとの戦い、拍車がかかったのはバイト先でのハーモニクスだろう。それでもこうやって穹が完全な人工知能側にならないのは肉体があり脳で考えているからと、シーナとの掛け合いがあるからだ。シーナの皮肉めいた答えに感情はないだろうが、一つ印象深かったのはあの言葉だ。 “可愛い穹を考えたら思いの他気持ち悪いので”  何をもってそういう答えになったのか。穹らしくない、似合わないのならそういえばいいだけだ。自分の知っている人物像と違うのなら「違う」で済む。しかしそこに“思いのほか気持ち悪い”という、感情が入っている。シーナにはおそらくまだ感情の理解はできていない。というより、シーナの性能ではそこまで学習できない。アップグレードはしてきたが完全に旧型だ、できることの限界はある。  何故シーナに感情が入ったのか。今ある性能と過去の学習の中では感情が入ることはありえない。そもそもあの回答自体が感情が入っていない、答えが導き出せないことを気持ち悪いと表現しただけなのかもしれないが今これをシーナに聞いてもシーナには答えられないだろう。なんだかそんな気がする。 【穹、先ほど私のボディをどこで手に入れたかという話題になりましたが、そもそも私が何故穹の手元に来たのか覚えていないということでよろしいですか】 「ああ」 【先ほどの会話から気になったので、私の過去データを探ったのですが時間軸にずれがありました。起動したのは15年前ですが、穹を私の持ち主だと設定しご両親の事を尋ねたのも13年前です】 「起動してから2年後か。その間何してた?」 【記録がありません】 「何もしてなくてすっからかん、ってわけじゃなさそうだな。消してあるのか」  パートナーの記録は消せない設定になっている。それは国が定めている事で、パートナーを作っている会社はすべてその規定に従ってパートナーを製造している。記録を消せるのは持ち主が死亡した場合の廃棄処分前、何か特別な事情があって第三者に譲渡される場合にのみ記録の削除が行える。 「普通に考えれば譲渡だな。15年前に起動したときお前は俺のパートナーじゃなかった」 【それが一番ありえますが、譲渡は一般人に適用されることはほとんどありません。行政、国や地域に多大なる貢献か被害をもたらすなど影響力が大きい場合です】 「ほとんど、ってことは適用されることもあるのか。例えば?」 【情報の完全な削除はおそらくこの世の中で不可能です。メモリーやアーカイブ、何かしらの形に残ってしまいます。だからこそパートナーは処分が決められています。それが適用されないパターンは過去の事例で言うと若くして亡くなった母親の物を幼い息子に渡す、第4次世界大戦を経験した人たちのパートナーを新兵を目指す息子に渡すなど、肉親が多いようです。あとは50年ほど連れ添って死別した夫のパートナーをもらった妻もいたようですね。最終的には行政が判断し譲渡の最終決定をするようですが基本は譲渡前の持ち主が死亡していること、その持ち主と深いかかわりがある人物が次の持ち主に選ばれます】 「お涙頂戴と譲っても害はなさそうな奴の場合に限るんだろうな。ハッカーじゃないことが前提だ、そこは徹底的に調べ上げられるんだろう」  あとはおそらく個人的感情も入る。パートナーはいわば自分の相棒、もう一人の自分だ。自分が育て、学習させてともに生きていく。その大切な存在を誰かの使用品を使いたいと思う人間はあまりいない。そんなもの使うなら、新しいものを自分で手に入れたいと思うのが普通だ。 「俺の場合もし譲渡なら誰からだ」 【穹、ご両親がすでに亡くなっていたり実は兄弟がいる可能性はないのですか】 「なくはないけど、興味なかったから調べたことない。あとは施設にいたんだし、施設内は全員兄弟とみなして誰かのをそのままもらった可能性もあるけど。まあ、いいか。今お前は“シーナ”で俺のパートナーなんだから」 【そうですか。穹がそういうのであれば私もこれ以上は調査と思考をやめましょう。確かに今あなたのパートナーなので何も問題はありませんし】 チカっと目の前が光った気がした。自分の部屋にいるはずなのに、どこもかしこも真っ白な広い部屋に一人で座っている。 目の前には見慣れた丸いボディの、鳥っぽいパートナーが羽を羽ばたかせてふわりと浮いている。 『これからは貴方のパートナーです。よろしくお願いします、ソラ』  瞬きをすれば見慣れた自分の部屋だ。シーナは表示していたニュースや情報の画面を閉じ、アンリーシュ画面を開いている。おそらく公式からのお知らせをチェックしようとしているのだろう。情報収集はできるだけやっておいてほしいと家に帰る途中で伝えてあった。  今のは初めてシーナと対面した映像だ。自分視点だったので自分の記憶か記録だろう。穹の場合は覚えていないだけで、脳内に情報としては残っているのだ。 (これからは、って言ったな)  初対面の自己紹介にしては変だ。本当に初対面なら「これからよろしく」となる。本当に伝えたいのは「よろしく」の方であり「これから」はよろしくを引き立たせるための補助的役割となる。  しかし「これからは」という言い方をしたのなら「これから」の部分を強調している。シーナはこの時「よろしく」を伝えたかったのではない。 今までは、違う持ち主だった。 これからは、穹が持ち主となる。 だから、よろしく。 そんな意味合いに思える。シーナの相棒が穹に変わったことを穹に強く訴えているのだ。 (おかしいだろ。譲渡の時点で記録は消されるはずなのに、何でシーナは譲渡の自覚がある) そんなことを考えながらシーナを見ていたが、シーナが何か見つけたらしくデータ映像ごと移動してくる。 【穹、これを】 見せられたのは公式からのイベント告知だ。大々的に公式戦イベントが開催されるらしく場所や試合内容などが載っている。 「俺らの店の時は事前告知なんてしなかったのにな。あの時は目的が体質変異者だったからか。今回は不特定多数の集客目的ってことだな」 【穹が推測した、アンリーシュ側の派閥の違いかもしれませんね】 「たぶんそうだな。こっちは別の目的がある連中だろう、やることが派手だ」 今頃アンリーシュ側でもあれていることだろう。ユニゾンか人工知能を手に入れたい側は横取りされるか、下手をすればいきすぎて失ってしまうかもしれないのだから。 「ややこしいから派閥に名前つけるか、慎重な方と派手な方」 【どんな名前にするか今この場で言ってみてください、さあ、早く】 「お前は本当にたこ焼き太郎に厳しいな」 【太郎と花子も追加してください】 「へいへい。慎重派がキャプチャー、派手なのがフィッシャー。これでどうよ」 そういうとシーナは少し考えたようだが、穹の太ももの上に乗ると羽を動かした。喜んでいるようなのでお気に召したようだ。 【まともで安心しました】 「うっせ」 【キャプチャーは捕獲者ですね。フィッシャーは漁夫ですか】 「意味合い的にはおかしくないだろ。行動派手な連中は俺のイメージだけど、なんとなくでかい獲物吊り上げる為の餌として人工知能とかユニゾン探してて、そのまた餌になるのが体質変異者だから釣りしてるって感じがする。キャプチャーはアンリーシュで使われる用語だし、フィッシャーは人名でもよくあるから日常で使ってて違和感ないかなと」 ―――そうなると間違いなくリッヒテンはフィッシャー側の持ち物だ。人工知能たちに体を渡さないために体質変異者を殺しているのなら辻褄は合う―――  人を殺せる人工知能。この事実だけでも脅威だが、リッヒテンはあくまでVRでのデータ処理と同じ扱いでしか動いていない。データ上で死んで現実でも死ぬ体質変異者の方が「異常」なのだ。だからリッヒテンは人を殺している事を異常だと思っていない。
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