43.ナイトメア

74/74
1650人が本棚に入れています
本棚に追加
/1000ページ
「浅倉く、」 「時間なんか気にしないで」 「いやでも、」 「まだ離れたくない」 困ったように結衣の眉根が八の字になる。その表情すら可愛くて、愛しくて、手を握る力を強めてしまう。 結衣の瞳の中の水分量が強くなった。 「……浅倉君」 「ん?」 「ギュってして」 その気持ちを俺の指を強く握ることでより顕著に表す結衣。体の奥深くが揺さぶられて、返事をするよりも先に手が動いた。 ギュっと抱き締めると、それに応えるように結衣の細い腕が首に回る。 「……まだ帰らないで」 「帰んないよ」 「……明日、朝遅刻したらごめんね」 「治なら分かってくれるから」 髪を撫で、頬をなぞり、愛しい彼女の瞼にキスをすれば熱が溢れ出す。首筋を舐めて、鎖骨に甘噛みすると結衣は小さく鳴いた。 「ん、っう、……浅倉君、」 「……ん」 弱い力で髪を掴まれる。毛布の中に手を忍ばせると、さっきチラリとしか見えなかった柔らかな部分に触れた。グシャ、と髪がより乱される。 喉の奥から吐き出される息はすっかり熱くなっていた。 「好きだよ」 「…、あ……っ、」 彼女が違う男に触れられたこととか。彼女にはこれまで付き合ってきた男がいることとか。ひどいことを言って彼女を傷付けてしまったこととか。自分の不甲斐なさとか。 今更どうしようもないことも、気にしたらきりがないことも、受け入れなきゃいけないことも全部混ざって熱になって、結衣にぶつけるのは良くないことだけど。 今日の夜だけは許してほしいと思いながら、高まる感情をありったけ彼女に刻み込んだ。 -ナイトメア―
/1000ページ

最初のコメントを投稿しよう!