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◇
ある水曜日の夜、私はいつものようにイヤフォンをしながらスマホを両手で握りしめていた。
「おれ、左から行くから、コロネさんは右側の雑魚キャラを倒してもらえますか?」
両耳から聞こえてくる彼の声。
「わかりました」
イヤフォン内蔵のマイクに向かって答え、自分のアバターを動かすために、スマホの上で指を滑らせる。
桃色ポニーテールの「私」の前を、大剣を背負った「彼」が走り抜ける。赤メッシュが入った黒髪が風を受けて揺れる。
彼の頼もしさが好きだ。男の人にしては少し高めな声が好きだ。落ち着いてゆっくりしゃべるところが好きだ。私に何かを「命令」することはなく、丁寧語で「お願い」してくれるところが好きだ。
私は、アバターしか知らない、声しか聴いたことのない彼に、恋をしている。
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