オンライン大型ドライバーの姫野苺でっす!

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時は西暦2050年  自動運転化が不可能と言われていた大型自動車の運転は、現在の技術を持ってしても、未だ不可能なままである。  しかし、奇しくも2020年に世界を震撼させた流行病、COVID‑19を皮切りに、絶え間なく流行病が蔓延したこの30年における、技術革新の賜物によって、ついに人類は大型自動車の〝完全オンライン運転化〟技術を完成させたのであった。  日々新しい流行病が発見される今日において、外出は自殺行為であり、人類の外出は各国の政府により、法の元で厳格に管理されることとなっている。  日本でも2020年、COVID‑19が流行した数年後、〝第101代内閣総理大臣 漂流愛院党総裁 志村之健太郎氏〟の意向によって〝全国民外出区画令〟が発令された。この制度は、日本人の外出することのできる時間は1日2時間を限度とし、またマイナンバーによって、外出時間帯を厳しく指定する制度の事である。  〝全国民外出区画令〟の発令により、最もダメージを負ったのは物流業界だろう。発令当時、長時間を要する車や船での物流は完全に不可能となり、一時期はドローンのみで物流運航が行われていたほどである。  そこで日本人は持てる全ての技術力を注ぎ、大型車両の〝完全自動運転化〟ならぬ〝完全オンライン運転化〟技術を完成させたのである。  この完全オンライン運転化とは、運転手は自宅に居ながら大型車を運転できる技術の事であり、ハンドル、モニター、シフトレバー、アクセル、ブレーキ等が一体化した、ゲームセンターのレーシングゲーム機程の大きさの、専用チェアーで運転し、外の大型車と連動させ、運転する技術の事である。  この技術は現在外を走るほとんどの車で実用化されている。そのため外を走る車に人は乗っておらず、専用チェアーを利用し、運転手は自宅で運転。用件はインターネットを介して済ませるため、実際にハンドルを握り、外で車を運転したことのある若者はほとんどいなくなった。  3年前に自宅の専用チェアーから受講できる、オンライン教習所で大型自動車運転免許(第3種)を取得した姫野苺は、オンライン免許書をモニターに読み込ませ、指紋認証によってエンジンを入れ、シフトレバーを2速に入れて深呼吸する。  苺は免許取得後、流行病に対する試薬を扱う会社に勤務し、日々完成した試薬を各医療機関へと大型トラックで配送している。  今日もついに完成した、現在流行中の〝枝垂れ桜病〟という、感染すると〝仕事に対しての意欲が極端に薄くなり、上半身が枝垂れ桜の様に垂れ下がる〟という病に対する試薬を、大阪の高石市から梅田の令和記念病院へと配送する。  近年では自宅で車を運転することができるため、身の危険や負担も随分と減った。そのため物流業界で働くドライバーの多くは、苺のように若く、甘い香りのする女性が多く在籍していた。  シフトレバーがニュートラルに入っていることを確認し、ハンドブレーキを引き上げ、発車する前に自身のトレードマークであるピンク色の長い髪の毛を、ふわふわのリボンでツインテールに結び、苺は気持ちを高ぶらせる。  耳元のスピーカーから、ラジオ放送のような音源が聞こえてくる。しかし雑音が多く混じり、余り聞き取れない。恐らくよくある渋滞などの案内で、どこかの道路が混雑しているに違いない。  気を取り直し、シフトレバーを2速に入れ、ハンドブレーキを下げると、耳元のスピーカーから、プシューといった油圧ポンプから空気の抜ける音がした。左足で踏み込んだクラッチを少しずつ浮かし、右足のアクセルを少しずつ踏み込む。すると、何十トンもある大きなトラックが「ゴォ!」という呻き声のような音を吐き出し、大きな車体がゆっくりと動き出した。  臨海沿いの大きな車庫から発車し、苺が運転する大型車はシフトを変えつつ、大阪と和歌山を繋ぐ府道へと走り抜ける。  令和記念病院がある梅田へは、この府道を北に走り続け、府道が四ツ橋筋へと変わり、そのまま北上すると、30年前まで栄え続けたターミナル駅、旧・大阪駅、西梅田へと繋がる。そこから令和記念病院までは5分とかからない距離なので、実質梅田へ行くにはこの単調な直進道を走り続けることが、最短ルートとなっている。  しかし今日はクリスマスも終わった12月の終わり、どこもかしこも仕事納めと言うのに、随分と府道を走る車は少なく感じる。恐らく発車前の交通案内のせいだと思うが、当の案内を聞けなかった苺としては、この車の少なさに些か不安を感じる所だ。  車を走らせること30分。天下茶屋、新今宮を過ぎ去り、前方に旧・なんばHatch跡が視界に入った時、200メートル程先の横断歩道が、黄色と赤色の鉄でできたバリケードで封鎖されていることに気が付いた。  バリケード手前で大型トラックを停車させると、耳元のスピーカーから何やら無機質で機械的な音声が聞こえた。  音声の主はバリケードの前に立っている、ロボットでできたオンライン警察官の物であり、機械的な音声で「新今宮、天下茶屋駅周辺ニテ、世紀末病ノハイパークラスターガ発生中。感染拡大防止ノタメ、一時近隣道路ノ交通ヲ規制シテイマス。」  世紀末病とは、10年程前から流行している流行病で、根本的な治療方法はまだ確認されていない。そして感染すれば、世紀末にいそうな、派手な暴走行為を繰り返したくなる性格・風貌へと豹変し、器物破損や金品窃盗などの害をなすことが、何よりもの快楽となってしまう。そんな極めて危険な流行病である。  しかも今回は、その世紀末病がハイパークラスター化していると言うではないか。これはただ事ではない。 彼らは政府が出している全国民外出区画令にも従わず、常にバイクやトラックを乗り回し、暴走行為を続けている。そして道を走る無人車を無差別に襲い、金品を強奪して人々の暮らしを脅かす。  つまり今この状況で、苺の運転する無人のトラックが襲われると、やっと完成した試薬は病院に届けることもできず、更に言えば、彼らに奪われ、悪用される恐れがある。そんなこと、絶対にあってはならない。  自宅の専用チェアーに座り、親指の爪を噛みながら苺は最短最速の迂回ルートを計算する。  四ツ橋筋を直進できないのならば、このまま千日前を利用するか、はたまた少し戻って堺筋まで抜け切るか。  ルートが定まり、シフトレバーを2速に入れて発信しようとした瞬間、目の前にいたロボットのオンライン警察官が千日前方向に吹っ飛ばされ、木っ端みじんに爆発した。  苺はモニター越しに左右を見渡すと、そこには何十何百という世紀末病感染者がゴロついており、みなバイクやトラックに乗り、オンライン警察官とバリケードを破壊し続けている。  後方に下がり堺筋を経由しようとしたが、バックモニターで後方を確認すると、後方にも何十何百という世紀末病感染者がこちらに向かってきており、みな「ヒャッハー!血祭だぜぇー!」等と叫びながら、苺の運転するトラックに飛びかかろうとしてくる。  このままでは令和記念病院に到着する前に試薬が奪われる!それだけは絶対に避けたいことである。  目の前にいたオンライン警察官とバリケードは世紀末病感染者に破壊されている。左右後方の道も既に世紀末病感染者で埋め尽くされている。それどころか彼らは苺の運転するトラック目掛けて、トラックやバイクで突撃しようとしているではないか!  迷ってはいられない。ハンドブレーキを引き下ろし、シフトレバーを3速に入れ、クラッチとアクセルを一瞬で繋ぎ、トラックを急速発進させて梅田方面へとこのまま全力全快で走らせる。  4速、5速とシフトを上げ、バックモニターとサイドミラーで後方を確認すると、ざっと数えても300から400人程の世紀末病感染者がバイクやトラックに乗り、苺の運転するトラックに追随してくる。  四ツ橋筋を北上し、右手に旧・アメリカ村跡地が見えた時、苺のスピーカーに一本の通信が入った。  「こちら本社。こちら本社。姫野君、聞こえるか?」  声の主は高石市の本社にいる部長だった。  「こちら姫野。こちら姫野。本日天下茶屋・新今宮間で発生した世紀末病感染者クラスターに追われながらも、梅田方面へ移動しています!」  返答後すぐに耳元のスピーカーからサイレンが鳴り響く音が聞こえた。  「部長!どうしましたか?サイレンの音が!」  直後、後方の世紀末病感染者の一部が、ついに苺の運転するトラックの両脇にまで迫り、左右後方の三方を囲まれる形となった。  「こちら本社!大丈夫、聞こえています。実は本社もつい先ほど世紀末病感染者に襲われ、枝垂れ桜病の試薬株と製造データを失ってしまって…」  絶望的な部長の声が聞こえた。こちらもトラックが襲われ、それどころではない。しかし試薬株と製造データを失ってしまっては、今苺が運転するトラックに積んでいる試薬が最後の砦となるではないか。  「そうだ部長!バックアップは?データのバックアップはどこかに保存していないんですか?」  5秒程の沈黙の後、部長の唾を飲み込む音が聞こえ  「…ごめんなさい」  「なぜデータのバックアップを取っていなかったんですか!こちらも感染者にいつ奪われてもおかしくない状況なのに!」   直属の上司である部長に苺は激怒して叫んた。   すると泣き叫ぶような声で「だってー!こんなこと起こると思ってなかったんだもん!あーもう!社長にも怒られるし、部下にまで怒られるし、今日は散々だよ!」  泣き叫びたいのは苺の方である。  「とにかく!今姫野君が運送している試薬が最後の頼みの綱なんだから!何とか無事に令和記念病院まで運んでくれたまえ!病院には世紀末病感染者を一時的にマヒさせるガスがあって、散布手配はこちらで病院側に連絡しておいたから!こちらはこちらで何とかして…」  〝ガサガサ〟と言うノイズの後、部長との通信が途切れてしまった。愕然としながら、泣き叫びたくなる気持ちを抑えて、苺は左右後方にいる世紀末病感染者に抱きかかえられるような状況下で、命からがら逃げ続ける。  交通規制をしているとはいえ、所々無人の乗用車が見受けられ、彼らへの被害は最小限と思いながらも、苺はシフトをさらに上げていく。  とにかく、令和記念病院にたどり着かなければ、試薬投与も世紀末病感染者の活動を抑えることもできない。  苺の運転するオンライン大型トラックは世界一の性能を誇るもので、前進24段階変速シフト+後進4段階変速シフトという超ハイスペック性能だ。旧時代のトラックでは想像できない運転が可能になるが、同時に運転技術が低ければ当然事故率も上がる、諸刃の剣である。  左右後方から嫌と言う程の煽り運転を受け、特に後方に関しては今にもテールゲートに掴みかかり、積荷に人が飛び乗ってきそうな勢いだ。  中央大通り、本町通を抜け、肥後橋の交差点を抜けたころ、世紀末病感染者群はついに前方を囲もうと、左右からバイクが何台も飛び出してきた。  この先、西梅田の交差点を右折しなければ、梅田の中心地街に入ることは不可能。  しかし、10速シフトの入った状態で西梅田の交差点を右折するとなると、安全に曲がりきることは不可能である。またシフトを下げ、速度を落とすと今度は前方を囲まれ、逃げ道が無くなる背水の陣となる。  こうなると〝あの〟手段を使うしかない。禁じ手としている程の危険な技だが、手段を選んでいる暇はない。苺は奥歯を噛みしめ、持てる限りの運転技術をここで発揮することを誓った。  失敗すれば確実に世紀末病感染者に捕まり、試薬を奪われる。もし成功しても周囲への被害は免れない。  腹を括り、11速にシフトを上げ、苺の運転するトラックは旧・フェスティバルホール跡地が見える渡辺橋を渡り、更に加速を続ける。  そしてついに四ツ橋筋、北の突き当り、西梅田の交差点が見える位置まで、苺の運転するトラックは進行した。  しかし左右後方から迫りくる世紀末病感染者の数は依然として減らない。いいや、むしろ先程までよりも増えている。  時速100キロを超す勢いで右折しようものなら、トラックの積み荷部分は遠心力で左方向へ流され、旧・大阪駅構内跡地へ突撃し、積荷内に入っている試薬は確実に助からない。  また逆にスピードを落とし、安全な速度で右折しようものなら今度は追っ手の世紀末病感染者に囲まれ、積荷を荒らされて試薬が助からない。  そうなると出てくる答えは一つ。試薬が破損されない程度の安全な速度で右折し、かつ世紀末病感染者から逃げ切る方法を考え、実行しなければならない。  西梅田の交差点の手前は6車線から7車線に切り替わる。周囲の建物に多少の被害は出るかもしれない。しかし商業施設のほとんどが廃墟と化した現在なら、無茶かもしれないが、追っ手に囲まれず、試薬も無事で逃げ切る方法が一つだけある。  肉を切って骨を断つ。非常に危険ではあるが、全て事が上手く進めば追っ手の数も大幅に減らすことも可能だ。  左手を胸に当て、苺は小さく深呼吸し、持てるだけの技術を投入した、一世一代の大賭博に打って出る。  西梅田の交差点に入る500メートル手前、苺は11速に入っているシフトを二段階ずつ落とし、同時にブレーキも踏み込む。通常のブレーキに加え、シフトを急激に落としたことによって作用されるエンジンブレーキを利用し、時速100キロを超えるトラックの速度を急激に落とす。  後方から追ってきていた世紀末病感染者たちは、苺の運転するトラックの急激な減速にブレーキが追い付かず、トラックもバイクも次々と苺のトラックの積み荷にぶつかり、またぶつかることを避けた者たちは足元をすくわれ、品の無い雄叫びを上げながら、次々と横転していった。  さらに急激に減速した瞬間、ハンドルを右に切ることで、苺の右側にいた世紀末病感染者たちはトラックに巻き込まれる形で弾き飛ばされ、旧・梅田ヒルトンホテル廃墟へとバイクやトラックごと突っ込んでいった。  2速まで急激に減速したトラックのハンドルを左に切り、梅田方面へ車体を戻し、苺は4速のスピードまで加速させる。  トラックの右側と後方から追随していた感染者を蹴散らし、その後速度を上げたことで、左側にピッタリとくっついていた感染者群も、陣形を崩して苺のトラックの後方から追いかけるようになった。  西梅田の交差点を無事に右折し、更に次の歩道橋下の交差点を左折する。すると左側に旧・大阪駅跡地、右側に現・阪急オンライン留置所が見えた。  令和記念病院まで残り500メートル程。後方から追ってくる世紀末病感染者群は、カーブの連続でスリップして身動きが取れなくなった者もいる中、声と呼べない雄叫びを上げて迫ってくる。  左手に旧・ヨドバシカメラ廃墟を見据えて、芝田の交差点を右折しようとした瞬間、ついに苺が最も恐れていた出来事が起こった。  なんと後方から迫ってきていた世紀末病感染者達が束となり、トラックのテールゲートにしがみつき、そのまま積み荷の上に乗り込んできたのだ。  元の施設の名残で、屋上に赤い大きな観覧車を残した令和記念病院まで目と鼻の先と言うのに。  ハンドルを左に切り、一旦進路を変え、そのまま茶屋町廃墟街の細い道へとトラックを進め、苺の巧みなハンドル操作とシフト操作により、細く入り組んだ、元々は流行の発信地であった茶屋町廃墟街の中を、感染者を引き連れて走り抜ける。  カーブの度に積荷の上に乗る世紀末病感染者を振り落とし、急ブレーキと急速発進を繰り返し、追随する世紀末病感染者を振り切って走った。  荷台上に乗り込んでいた世紀末病感染者を全て振り払ったことを確認し、苺は茶屋町廃墟街を抜け、再び令和記念病院が見える梅田のメインストリートに抜けた。  令和記念病院まで直進で約300メートル。ここでまたテールゲートに何人かの世紀末病感染者がしがみついてきた。が、しかし今度は先程と違い数も少ない。苺はこのまま速度をグングンと上げ、屋上にそびえ立つ、赤い大きな観覧車がシンボルマークの令和記念病院へと全速力で走った。  雄叫びを上げながら襲いかかる世紀末病感染者を引き連れ、苺もまた「届ぇー!」と叫びながら、最後の気力を振り絞り、令和記念病院のトラック搬入口へ突撃する。  搬入口に突撃するや否や、病院の辺り一面に霧のような、白くモクモクとしたガスが散布され、バイクやトラックに乗って襲い掛かってきた世紀末病感染者は勿論、苺の運転するトラックのテールゲートにしがみついていた感染者も、一時的に体がマヒし、深い眠りについた。  そしてその場に居合わせた、オンライン医療従事者が操作する、医療従事ロボットが世紀末病感染者達を捕縛し、道路を挟んで向かい側にそびえ立つ、阪急オンライン留置所へと身柄が回収されていく。  機械的な声で「企業名、名前、用件ヲ、オ伝エ下サイ。」と、警告のため目が赤く光った医療従事ロボットが、スピーカー越しに話しかけてきた。  「株式会社試薬開発の姫野苺でっす!本日は枝垂れ桜病の試薬を運んできました!」先程までの緊張でまだ呼吸は整っていない。それでも今出せる最大の声で苺は答える。  すると医療従事ロボットの目は、警戒を示す赤色から、安全を示す緑色へと目の色が変わり、「ソレデハ、テールゲートヲ開ケテ下サイ。」とまた機械的な声で話してきた。  テールゲート開錠ボタンを押し、医療従事ロボットの手によってテールゲートの開いた荷台の中から、枝垂れ桜病の試薬が取り出される。  念のため、医療従事ロボットがリトマス紙のような紙で試薬の効果を試し、効果が表れたことを確認し、電子受領書を苺のメールに送信した。  受領を確認すると、苺の座る専用チェアーのモニターに〝ミッションコンプリート〟の文字が表示された。  苺の勤める会社とは依然連絡が取れず、今日1日は令和記念病院にトラックを置かせてもらうことにした。  部長たちの安否は気になるが、世紀末病感染者は金品の強奪はしても、身体に特別危害を加える事例は出ていない。それに試薬は届けることができた。データも残せたことだし、きっと大丈夫だろう。  今日のようなケースは時々起こるが、何度経験してもやはり疲れるものである。  苺はオンラインで行う業務以外に就いた経験が無いため、実際に外に出て出社し、人と直接顔を合わせて働くと、どれだけ疲れるのか、想像するだけで身震いを起こしてしまう。  きっと30年前の人々の仕事は、今以上に神経を使い、疲れていたんだろうなと思い、この時代も案外悪いものではないのかもしれないと考えを改める。そう思うと強張っていた顔の筋肉が緩くなり、微笑んだ。  大変疲れた一日を乗り越え、専用チェアーのリクライニング機能を使い、苺の意識はゆっくりと遠ざかっていき、その瞬間の気持ち良さをニタニタとした面持ちで喜んだ。  数分後には寝息を立て、苺はすっかりと深い眠りについていた。よだれを垂らして眠る苺の耳元で、また雑音交じりのラジオ放送のような音源が入ってきた。  「昨夜未明、オンライン政府より新たな流行病が確認されたとの報告がありました。」「流行病の名前は〝能天気病〟とのことで、見られる症状は〝無職の人がずっと太陽を見上げて笑っている〟という症状だそうです。」「今回も株式会社試薬開発が試薬製作にあたって一番に名乗り出ているそうで…」  このことを夢見心地の姫野苺が知るのは、まだもう少し先のことである。
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