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「……ルーベン? 今なんと言ったの……? 」
「ですから睦子おば様どうか……! どうか私の2人の息子、アーサーとセオドアを引き取ってはいただけないでしょうか……! 」
「何故です? 突然訪ねてきたかと思えば、そんな突飛なお願いとは……何があったのかお言いなさいな。話し合うのはそれからです」
「そうだね。ルーベン、物事には順序があるからね、話しを聞かせてくれるかい? 」
「じ、慈朗おじ様……はい……。い、一昨年、我が妻アメリアが亡くなったあと……、わ、私は……っ、その……っ」
「……ゆっくりでいいわよ……」
「ぁ、ありがとう、ございます……フー……、その、妻亡きあと、私は無気力になり……仕事も手に付かず……」
「……ルーベン貴方……そうだったの……」
「何も知らなくて申し訳なかったね……」
「ぃ、いいえ………っ、………その……」
「……? それで? 」
「は、はい……わ、私は、そればかりか……詐欺にも、ひ、引っ掛かり……我が家はもう……っ、」
「……援助では駄目なの? 援助という形ならいくらかは助けになれるわ。ねぇ慈朗さん」
「うん、そうだね。そうではない理由は? 」
「…………っ、そ、れは……、その……ぁ、の……」
「……ルーベン……? 」
「っ、わ、私は妻の……っ! アメリアの元へ行きとうございます……っ!! 」
「っ!! ル、ルーベンっ!? その先を言ってはなりませんよ……っ!? 」
「わ、私は─────────」
「ルーベン……ッッ!! 」
「私は死んでアメリアの下へ行きたい……っ! 私は死にいたいのです……ッッ!! 」
「なんてことを……っ! 」
「ルーベン、子供達の前───────」
「「うわぁぁぁぁぁんっ!! 」」
「おと、さま……っ! そんなこといわな……っ、 で・……っ!! 」
「と、さま……っ、ぼくのこと、おいていかな……っ、うえぇぇぇ……」
「この……っ、大馬鹿者ッッ!! 」
「睦子さん」
「アンタ……っ、よ、よくも自分の子供達の前 で……っ、」
「睦子さん、落ち着いて」
「これが落ち着いていられますかっ! 国が違うとは言え、どこに自分の子供達の前で 『死にたい』 などと口にする親がいますかッッ!! 」
「ック、むつこおばさ……、おとうさま、っ、こと……おこらな、で……」
「むつこおばちゃ……っ! おと、ヒック、さまは……わるくないです……っ! 」
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シン、と静まり返る講堂内。
「……自分の父が、自分の目の前で『死にたい』と口にしたあの瞬間は……絶望しかなかった……」
「自分は父上の生きる意味にはなれない、と……」
「自分は父上には愛されていないのだ、と……」
「……そう言われたのと同義だと……」
勿論今は、そうではなかったことを生前の父から『正気ではなかった』と聞いて分かってはいるが、当時を思い出すだけで今も気落ちするような絶望を感じたのは事実。
いくら貴族社会で一目置かれる存在になったとしても、今その過去を淡々と話すアーサーも、そしてセオドアも当時はたったの6歳の少年なのだ。
その傷が、いかに2人にとって大きく、今も痛みを覚えるほど深かったのか。
それを考えるだけで誰もが胸に痛みを覚える中、レジーは俯き涙を流していた。
アースキン伯爵家の嫡男であるレジー。伯爵は侯爵の補佐をすることが多く、レジーの先祖は何代か続けてガルガンド侯爵の補佐をしていたが、現代ではその頃のような関係である必要はなくなった。
しかしお互いに事業者として交流自体は今もあり、当時ガルガンド侯爵家から多くの恩恵を受けていたアースキン伯爵家は、現代でもガルガンド侯爵家をとても慕っている家門。
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