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信号が青に変わり、再び車が動き出す。気付けばモノトーンの車内が柔らかく色付き始めていた。どこかふわふわとしたお尻の感触に、このシートは高級品なのかしらと思い出す。
太ももの横のシートを撫でながら、眼鏡の横顔に声を掛けた。
「佐々木さん。このシートって高級な奴ですか?」
「は? 普通のだよ。カタログスペック通り」
佐々木さんは「何だ突然」とブツブツ言った。私は鞄を握り直す。食い込むほどに握り締めていた手からは自然と力が抜けている。
「絶対成功させましょうね。このプロジェクト」
佐々木さんに負けないようにきっぱりと断言すれば、佐々木さんは視線だけでこちらを向いて片眉を吊り上げた。
いつの間にかワイパーは動きを止めている。漸く雨も上がったようだ。
「佐々木さ……」「羽賀……」
話を続けようとしたらまた声が被った。なんとタイミングの良い二人だろう。今度は佐々木さんが「どうぞ」と言う。
「私、雨が嫌いなんです。だから晴れて良かった」
佐々木さんは、「そうか。それは良かった」と笑った。
完
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