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「わぁ!!凄い!!これでいつでもチョコレートファウンテンが出来ちゃう!!」
俺がいづきに渡したバレンタインのプレゼントは、自宅でもチョコレートファウンテンが楽しめるというちょっとしたキッチン雑貨だった。
昼間、初めてのチョコレートファウンテンに目をキラキラとさせていたいづきが余りに可愛くて忘れられず、いづきが買い物をしているその少しの間に見つけて購入しておいたのだ。
「嬉しいー!ありがとうー!!やっぱり出琉さん大好き!!」
「まぁ、カフェでやってたみたいにはならないんだろうけど、ちょっと楽しそうかなって」
「うん、絶対絶対一緒にやろうね!わぁー、フルーツとかマシュマロとか買ってこなきゃ。あ、ウエハースとかもいいかも!」
ちょっとしたものでもこうして全身で喜んでくれるいづきの可愛さ。
見てるこっちが幸せになるわ。
「ほんと可愛いな、いづきは」
言いながら俺はいづきから貰ったチョコをもう一粒口に運ぶ。
大きな箱の中のチョコはまだまだたくさん残っているけれど、もったいなさすぎて一気になんて食べたくない。
一粒一粒家宝のようにいただこう…そんなことを思いながら有り難みを噛み締める俺にいづきが顔を向けた。
「ね、出琉さん、いつか僕のことお嫁さんにしてくれる?」
「へ!?」
突拍子もない突然の可愛いお願いに、思わず飲み込みかけたチョコを吹き出しそうになる。
「ダメ?」
「ダメって言うか、待ってそもそもお嫁さんって何?それ言い方合ってる?」
「んー、僕もよくわかんないけど、でもなんか僕が右側にいるほうが自然な気がするなぁーって。仕事から帰ってくる出琉さんに、ご飯にする?お風呂にする?それとも、僕?って」
「…」
普通に想像出来てしまう。
普通に想像して、ちょっと鼻血なんかが出そうになる。
だからそんな可愛い上目遣いでこっち見ないで…!!
「…確かに、いづきのためならあの地獄を地獄で固めたみたいな仕事も頑張れる気がするわな…」
思わず呟いてしまった俺にいづきは眩しすぎるほどの満面の笑顔を見せた。
「じゃあ約束!約束だよ!!だからもう少しだけ待ってて。僕絶対出琉さんを幸せにするから!」
「…」
この幸せな、幸せな夢はいつか覚めてしまうのだろうか。
俺にはもったいなさすぎて想像もつかない程のこの幸せは。
それでも、俺は…
「いづきのことずっとずっと待ってるから、だからゆっくり大人になればいーから」
いづきの髪を撫でる。
いつかいづきの夢の方が先に覚めて、バイバイって俺の前からあっさり消えてしまう日が来ても、俺は今日のバレンタインのことをバカみたいにいつまでもいつまでも忘れることなんて出来ないんだろう。
一人寂しく死んでいく日が来ても、きっと最後の最後に思い出すのは今日のいづきの笑った顔なんだろうって、心から思う。
そんな俺の心の中なんて露知らずの幸せそうないづきは、俺に撫でられてまたさらに嬉しそうな笑顔を溢した。
「…じゃあ、今日は泊まっていい?」
「じゃあって何!?」
笑顔で放たれたロケットランチャー級の一言に、ついさっきまでのセンチメンタルな俺の心は木っ端微塵に砕け散ってしまった。
「ちょっ、ちょっと待っていづき…」
「いいでしょバレンタインなんだからちょっとくらいー。クリスマスの時は我慢したもん」
そう言っていづきは離れないとばかりに俺の身体にぎゅっと腕を回す。
こんな時のいづきの行動力とそして俺を掴まえて離さない力(物理的)の強さは、紛れもなく男の子だ。
まぁ、それがまた可愛くて堪らない俺は、かなり重症だと自覚はしてるけども…。
「いやでもほら、いづきのご両親とかさすがに心配するだろ。…まさか俺みたいな相手のとこにいるだなんて思ってもみないだろうし」
「大丈夫だよ。うちの両親細かいこと全然気にしないもん」
「いや気にしないって言ってもですね…」
まぁ先ほどちょっとだけ垣間見えたいづきのお母さんのイメージはなんだかおおらかそうな人だけど…。
いやでもさすがにどんだけおおらかな人でもまさか17歳の息子の恋人が29歳のおっさんだとは思わないでしょうよ…。
あ、そういえば。
いづきの家族の話なんかは今まであんまり聞いたことがなくて、ふと気になった俺は腕の中のいづきに訊ねる。
「そういやいづきは兄弟とかいるの?」
「いるよー、僕入れて5人。みんな男だよ」
「ご…っ!?」
意外である。
さらにいづきから語られた5人の話はなかなか内容の濃いものだった。
「1番上は自衛隊で今京都にいてー、2番目は青年海外協力隊?みたいなので海外にいるしー、3番目はちょっと変わっててラノベ作家してるの。人見知りで部屋から殆ど出てこないよ。で、4番目が僕で、末っ子は僕と一番仲良いかな。今中ニだけどすっごく頭良くて、全国模試とかでもいつも10番以内に入ってるよ。僕がたまに勉強教えて貰ってるくらい」
「そりゃ凄いな…」
妹と二人兄妹の俺は個性的な兄弟たちの話にただただ感服するばかりで、そんな俺にいづきは笑顔で続ける。
「うん、みぃんな好きなことしてるから、だから僕が出琉さんのお嫁さんになりたい!って言っても誰も驚かないと思うよ」
「いや、それとこれとはまた別の話なんじゃ…」
「えー、そんなことないよ。だから今日は泊まって行っていいでしょ?」
もういづきはテコでも動くつもりはなさそうだ。
小さく息を吐くと、俺はいづきの頬を両手で挟んで顔を上げさせた。
「わかった。…でもちゃんとご両親に連絡して了承取ること」
「…!…はい!!」
「…あと、そういう…?なんかそういう大人の恋人同士がするようなことはしません」
「えー?しないのー?っていうかそういう大人の恋人同士がするようなことって何?(にこにこ)」
「…。以上の点に了承を得られない場合、本日の宿泊はナシとします」
「えー!!やだやだ!!ちゃんと守る、守るからー!!」
いい大人が何やってんだ、という気持ちは頭の隅に追いやって、可愛いいづきと抱き合ったまま、額を合わせてじゃれ合うみたいに笑い合う。
想像もつかないこの恋の行く末なんて、さらに想像もつかない。
そりゃもう前途多難どころじゃない、暗中模索の五里霧中だ。
けど、こうしていづきと一秒一秒を一緒に重ねていくことが、こんなにも愛おしい。
ついでに言うと、いづきに振り回されっぱなしのこんな自分もちょっとだけ、愛おしい。
「出琉さん、ずっとずっと一緒にいてね」
「ん…、いるよ。ずっといづきの傍にいるから」
重なる唇から溢れていくのは甘くてちょっとだけ厄介な、深い愛。恋心。
そうして俺たちはまた、甘い甘いチョコが溶けていくみたいな、少しだけ深いキスをした。
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