後日談3 人生は何が起きるか分からない

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「とにかく、この件はお終いです。引っ越しに次ぐ引っ越しで、私もまだ落ち着いてないんです」 「では、極力あの二人には顔も見せるな気配も消せと言っておこう」 「ですから! 複雑なのはそういう意味でなく、あんな事があったのに親戚関係になるなんて、そうそうないでしょう?!」 辛かったし例えようのない胸の痛みも覚えているけれど、あれもこれも過去の話だ。 私が未だ誰も信じられず、元夫や香織の仕打ちに囚われていたら、過去と断定出来なかったと思う。 だけど私には今、愛すべき人がいる。 前を向けている。 善人じゃないから全部を許容するのは無理だけど、少なくとも中谷さんと結婚する道を選べるだけの覚悟はあるのだ。 舐めてもらっちゃ困るんです。 「私は逃げません。貴方の周囲ごと受け入れてます」 「そう言ってくれて凄く嬉しいよ。私も真紀さんに関わる全てを受け入れている。だが、少しでも不快だと思ったら絶対に黙らないで欲しいんだ」 「黙りませんよ。それに私が、なかなかの暴れん坊だと知ってますよね?」 「ああ知っている。女のヒステリーは嫌いだが、真紀さんの怒りは正当性があるから好きだ」 「……お礼を言った方がいいのかな」 「いや、返事は同じく愛の言葉で欲しい」 ストレートな小っ恥ずかしい要求が来てしまった。 中谷さんは頻繁に口にするけれど、私はそんな風に言えないんです。だって、本人を前に何度も想いを伝えるって、なかなか高度なことじゃないか。 「早く」 「あーー、分かりましたよもう!私もです」 「何が私もなんだ。はっきり言ってくれ」 ですよねー、そう来ますよねー、 分かってたけど、何でもかんでも思い通りにしようとするのが気に障る。たまには私が勝ってもいいでしょう? 長身の彼の襟首を引き寄せる。 驚く表情を見た後でソッと目を閉じた。 軽い口付け。 言葉にしなくても伝わる愛を込めたけど。 「……短いな」 「精一杯答えましたよ」 「では、真紀さんの精一杯に私も全力でお返ししようと思う」 「え、いや、けっこ……っんぐ!!」 返事をしろと言うからしたのに、そのお返しって屁理屈を捏ねた中谷さん。 強烈な口付けに息を奪われる中、やっぱり勝てないようだと白旗を上げた。 「真紀さん、子供は何人欲しい? 私は三人だ」 「っ、ぜぇぜぇ、あの、私っ、もう歳なんですが」 「まだ三十前半じゃないか。私はもう四十路だ。毎晩励むにはキツい年齢だが、愛の前では奮い立つと思うんだ」 「いや、頑張らなくていいですよ。今の頻度で充分というか……」 それに、この年齢だ。 子供が欲しいなら、自然に任せるより病院でしっかり調べて貰って致す方が妊娠する確率は上がると思う。 「現実的で理性的な真紀さんは好きだけど、まずは本能で試したい。というか愛し合いたいんだよ」 中谷さんの瞳に火が灯る。 火を付けたのは私だろう。 先程の行為を悔やむも時すでに遅し。 獣の再来……違う、いつでも獣に早変わりする中谷さん、お手柔らかに。 ( 完 )
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