心星落つる

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心星落つる

 秋の気配は夕空に忍んでやって来る。反対に、冬の気配は明けの空に滲んで現れる。  早起きは三文の徳とはよく言うように、あとりは冬の寒い日に早起きをして、山稜をなぞる真っ赤な朝焼けを眺めるのが好きだ。それと同じように、夜更かしをして冬の星空を眺めるのも好きなので、冬の夜長とはあとりには適さない言葉だった。  一年の中で、地上と空が最も近しい距離にあるこの季節。郷里では、こっそりと屋敷の屋根に上り、胸に迫るような満天の星空を眺めていた。  そういえば、壱心とは半分しか血が繋がっていないと母より教えられた日も、夜更けにこっそりと屋根へ上ったのだ。そこには思わぬ先客がいた。梯子(はしご)を伝って上ってくる妹に気づいた壱心が、驚きからか目を丸くする。普段から親密とは言えない兄妹だったが、この日は血の繋がりが半分しかないと知り、いつも以上に兄との隔たりを感じた。  裸足で瓦屋根を踏んだあとりに、壱心は何も言わなかった。存在を無視するかのように、黙々と頭上を見上げている。沈黙が星空の下に降り積もり、凍える風が頬を撫ぜていく。小さなくさめが出た。途端、壱心のいる方から至極面倒くさそうな溜息が聞こえた。
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