最終章

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「ボスー、俺たち言ってたんすよ、仕事が楽しいー!って」 ちょっと酔っ払いな能美センパイは、シラフの上司を巻き込もうとしている。 「そ?それは何より。俺も楽しいよ、知ってるだろうけどさ」 みどりちゃんがサッと出してくれた水のグラスに口をつけ、面白そうに神田さんは応じた。 「俺たちはー!テレビをー!こんなところで終わらせるわけにはー!」 「いかない!!」 センパイが俺に向かって『ご唱和ください』の顔をしたので、声を合わせてみた。神田さんが笑い崩れる。 「ハハッ、あーあ、お前ら最高。大丈夫、俺が終わらせないさ」 言い切る神田さんは、すでにラスボスの顔をしていた。かっこいい。永遠に尊敬してやまない上司だ。 『blue』のドアに背を向けて、家路への一歩を踏み出した。目の前には愛しい背中。並んでゆっくり歩くのも良いけれど、早く帰って存分に甘えたい。 「俺、走って帰っちゃおうかな」 「飲んでるのに大丈夫?」 「大丈夫。いつでも走る準備はできてますから!」 言い終わる前に、神田さんを追い抜いた。駆け出した初夏の夜。走り抜けたその先には、いつだって手に入れたい何かがある。風はちょっと湿っぽいけれど、熱をもった頬にはちょうど良かった。 end 2023/04/06
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