【14】つながる

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「はぁ……もー本当に捺さんはー」 翔太は特急電車に揺られながら、さっきからずっと同じ言葉を繰り返しボヤいている。 「悪かったっつの。もう言うなよ」 「だって! だって本当にもったいない! もっと早く話してくれてたら色々調べたり準備もできたのに! せっかく初めての旅行だったのにー!」 「だから俺も予約したの一昨日なんだって。調べたいなら今調べろよ」 「そういう事じゃなくてぇー」 隣に座る翔太が眉を寄せて俺を睨みつけている。 全然怖くないけど。 「分かったよ。次からはちゃんと言うから。な? 機嫌直せって」 険しい顔した翔太の頭をワシワシと撫でた。 「だって……もっと前から楽しみにしたかった。毎日指折り数えてワクワクしたかったんです……」 「じゃぁ次の旅行の計画、今立てる?」 「え?」 パッと顔が上がったと思ったら、もう不機嫌な様子はどこにもなかった。 「どこ行きたい? お前が決めていいよ」 「え、え、どうしよ……まだ何も考えてなかった」 「はは、うん。思いついたら教えて」 俺は大阪出張中に今回の旅行を決めた。 疲れていたから温泉でゆっくりしたいっていうのも、もちろんあったけど。翔太になにか特別な事をしてあげたかった。 だから俺は今回の出張手当て全額を、今日の旅費で使いきってやった。これで少しは我慢して出張した甲斐もあるだろう。 ※※※※※※ 「うわぁ! なにこれ広い! ……え、捺さん部屋ここで本当にあってます!?」 慌てた表情の翔太が俺と中居さんの方に振り返った。 「バーカ」 「ふふ、えぇ。こちらのお部屋で間違いありませんよ」 「あ、すいません……」 忘れてた、みたいな顔して翔太が恥ずかしそうに中居さんに謝っている。二人きりだったらもっと素直に喜ばせてやれたんだけどな。 それから夕食の説明や施設案内などを聞いて、俺達はやっと二人になった。 「あの、捺さんは本当に良かったんですか?」 「ん? なにが?」 俺は中居さんに入れてもらったお茶を静かに(すす)りながら聞き返した。 「だって、昨日まで出張で……今日もこんなに遠くまで来て疲れちゃわないかなって」 「だから温泉入るんだろ?」 「まぁ、そうなんですけど……」 「どこか行きたい所見つかった?」 「い、いいんですか?」 「いいよ。せっかくだし、観光しよう」 「……はい!」 俺がそう返すと、翔太のまわりに花が咲いたみたいに見えた。 こうやっていつもと違う事をしてみると、普段どれだけ構ってやれてないのかよく分かる。 こんなに喜んでもらえるなら、もっと色々してやるんだった。 お茶飲んだあと俺達は早速旅館を出た。 さすが有名観光地の週末ともなると、どこも賑わっていて、同じような旅行客で道が埋めつくされている。 「捺さん早く! 湯畑ですよ! あれあれ、ほら!」 「分かったからちょっと落ち着け! 湯畑は逃げねーから」 お前は修学旅行生か。 「すごい、テレビで見るやつ! うわ! 湯気がすごい、捺さーん」 「はいはい」 俺はおおはしゃぎの翔太が転ばないように、ぴったりと後ろに着いた。 「綺麗ですね」 「ん? うん、そうな」 「あれ、そうでもないですか?」 「いや? 来て良かったと思って」 「はい。ありがとうございます」 「あんまり騒いで体力なくすなよ?」 「大丈夫ですよこれくらい。あ、捺さんあれ! あれ食べたい!」 「ちょっ……走るなって!」 こんな所でバテたら困る。 今日ここに来た本当の目的は、まだ他にあるのだから。
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