【14】つながる

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長い長い冬の終わり。 春の訪れを知らせる小さな草木。 弥生の風は冷たくも、角のない柔らかさが感じられる。 遠くまで続く空は、どこまでも深く広がっている。 俺達は半日かけて草津観光をした。 こんな風にゆっくりと街を歩くのは、翔太と初めて遠出した江ノ島以来だ。 あの時の俺はまだ自分の気持ちに気づいていなくて……いや、気づいた日だったのかもしれない。 翔太にキスをした。 その瞬間に。 もしあの時の事がなかったら、俺達はどうなっていただろう。 いいや違う、きっとそうじゃない。 もう決まっていたんだ。 ゲイバーで翔太を見つけたその時に。 俺の未来はに繋がると── ※※※※※※ 「ふぅ、気持ちいいですねー」 「やっぱ露天風呂が最高だよな」 「捺さん、しっかり体の疲れ取って下さいね」 「んー。じゃぁ肩でも揉んでもらおうかな」 「いいですよー。俺結構上手いですよ」 「へぇー。テクニシャンだったのか」 「へ、変な言い方しないで下さい」 困った顔の翔太が細波(さざなみ)を立てながら俺の背中にまわった。 俺達は今部屋に付いている露天風呂に二人で入っている。 「うわーかったいですねぇー」 肩の真上を親指でぐりぐりと押されて、その圧がコリを刺激する。 「あーきもちいいー。もっと強くていいよ」 「えぇ、今結構力入れてますよ」 「まだ全然イケる」 「もーどんだけ凝ってるんですか」 確かに凝ってるのかも。 骨折したり出張したり、最近の俺はかなり頑張っていた。でもそれを癒すのはやっぱり── 「いいよ、もう。ありがとな」 「あれ、もう終わりですか?」 「それより前きて」 俺の肩に置かれている翔太の手を引いて正面まで移動させた。 じっと、瞳を見つめる。 それからキスしようと顔を近づけ── 「ん?」 たら、俺の口が翔太の両手でがっちり塞がれた。 「んーんーんー(なーんーでー)」 「だーめー」 俺はその両手を無理矢理ほどいた。 「なんでだよ」 「だってこれから夕食ですよ」 「まだ時間あるって。キスするくらいいいだろ」 「だめです」 翔太は頑なに拒否する。 「なんで!」 「捺さんはー、すぐエロいのするじゃないですか」 「それがだめ?」 「んー……だって、これから夕食……」 翔太の顔が赤くなる。 きっと湯の熱さのせいじゃない。 「飯となんの関係があるんだよ。チューっとするだけだぞ、チューっと」 俺は諦めない。 「だ、だから……今、む、ムズムズしちゃったらちゃんと食べれないじゃないですか……夕食、楽しみにしてるのに」 へぇ。そんな理由だったのか。 じゃぁ今回は特別に諦めてやろう。 「分かったよ。じゃぁ夕食後にたっぷりな」 「んっ」 俺は翔太の濡れた額に軽いキスだけをした。
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