五章

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 さらに行くと、いくつもの天幕が見えてきた。 「ここが避難場所みたいね」  青藍は双熹を振り向いた。 「そのようですね。――あちらで、炊き出しを行っているようです」  料理の香りがし、引き寄せられるように向かうと、椀を持って並ぶ人々の列があった。それを辿って行った先にいたのは、 「大麒!」  幾人かの衛士と一緒に、人々に料理を配る大麒の姿だった。 「やっと会えた……」  少し痩せて、身につけているものも汚れているが、元気そうだ。  青藍の目に涙が浮かぶ。駆け寄って、抱きしめたい。「あなたを探してここまで来たの」と告げたい。けれど、青藍は思いとどまった。 (今はその時じゃないわ)  青藍は足早に大麒の元へと向かうと、落ち着いた声で、 「大麒」  と名前を呼んだ。振り返った大麒が青藍の姿を見て、 「青藍?」  驚いた表情を浮かべた。 「どうしてここにいる!」  大きな声を上げた大麒に向かって、青藍は片手をあげると、 「質問は後。私も手伝うわ」  と言って、隣に立った。大麒が粥をよそった椀を手に取ると、待っている男性に渡す。 「気をつけて持って行ってね。次の方、どうぞ」  並んでいる女性から椀を受け取って、大麒に差し出す。手が止まっていた大麒は、気を取り直したように青藍から椀をもらうと、再び粥をよそい始めた。双熹はいつの間にか、青藍の馬と自分の馬を崩れた建物の中に入れ、人々の列の整理を始めている。  列は長く、粥が足りなくなりかけると、衛士が急いで次の鍋を持って来た。青藍は途中で調理の手助けに入り、全ての人々に食事が行き渡るまで、働き続けた。
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