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やり直し
数年が経ち、片瀬は刑務所から出所した。
ゲートの外で、立ち止まって空を見上げていたら、どこからかヘルメットが飛んできた。受け止め損ねた。
「運動神経、切れてんのね」
バイクに寄りかかった唯が、皮肉っぽく微笑んだ。その笑い方は以前と変わらなかったが、ぐっと大人びていた。かすかに薬品の匂いをまとっていた。
片瀬は転がったヘルメットを拾って唯に放り返した。
「運神はいい方だ。知らない女にバカにされる筋合いはない」
片瀬は唯を置いて歩き出した。
唯はバイクを引いてついてきた。片瀬が早足になっても、小道に入っても黙って後をついてきた。
唯には普通の人生を送って欲しい。前科者なんかにつきまとわれることなく。人殺しなんかと関わることなく。だから片瀬は差し入れも手紙も面会も全て断った。
唯からの音沙汰はキッパリなくなった。だからそれで終わったと思っていた。今日現れるとは思ってもいなかった。
片瀬は駆け足になった。バイクの入れない階段をかけ上った。
唯はバイクを捨て、走って追ってきた。唯の方が体力があった。
片瀬は息を切らし、追いつかれるのをあきらめた。が、片瀬は確固たる拒否を込めた目で唯を睨んだ。
唯は動じなかった。まっすぐ片瀬を見返した。
「初めまして」
唯が言った。
「メット拾ってくれてありがとう」
――ありふれた、平凡な出会い方の気がした。
(終)
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