あるかも知れない…未来

4/5
472人が本棚に入れています
本棚に追加
/161ページ
あれから10年。 今夜みたいな特別な日を除けば、私たちは以前と同じように暮らしている。 変わったことと言えば、圭ちゃんが中学生になり、家はまた高層マンションに移ったことくらい。 私はそのまま、そこからコンビニ勤めを続けているし、圭ちゃんは公立中学に通っているし、修爾さんは朝早く出掛け、深夜遅く帰ってくる。 …籍は入れていない。 修爾さんが嫌がったから。 もし自分に何かあったとき、私たちが巻き込まれないように、すぐに関係を消して逃げられるようにと、特に子どもと自分の籍は切り離しておきたいというのが、彼の考えだ。 少しばかり不安はあるが。それでも、私たちは互いに唯一無二のパートナーで、子どもをあわせれば家族(ファミリー)なのだと、私は勝手に信じている。 そして最後にひとつ。 何も変わってないとは言ったが、私たちの生活には、ひとつだけ大きな変化があったことを述べておく。 そしてそれが、今の私の自信の大きな根拠にもなっているのだが… 彼は、小さなお店が中くらいのお店に拡大し、ビジネスが軌道に乗り始めた頃から、あれだけきっちり怠らなかった避妊をやめた。 そして、そのあとすぐに… 私のお腹に命が宿った。 正真正銘、修爾さんと私の赤ちゃん。 生まれると、修爾さんによく似た美人の女の子で、彼は、美しい華と書いて、美華(みか)と名付けた。 無論その子も認知のみで、籍は私に寄せているのだが、彼は、その子名義の口座をつくり、養育費と称して身に余るほどのお金を毎月入れてくる。 単なるリスク分散、税金対策だなんて嘯いているが、それが、前述の"何かあったとき"の私たちへの保険であることには想像に難くない。 子づくりまで、何かあった時を見据え、冷徹に計算ずくでやっていたのかと思うと、相変わらず用心深くて怖い人だとも思うが、それだけ本気で護ってくれるつもりなのだと、私は良い方に捉えている。 「それでは…サー・アルベルト、またのお越しを」 「いや、今夜は勝たせてもらったよ…勝利の女神のおかげ…かな?」 深夜2時。 パチン。 重要客(V・I・P)の寄越したウインクに微妙な笑みを投げ返し、ホールスタッフが扉を完全に閉めるのを見届けると、私は、早々に踵を返し、「スタッフオンリー」の札を掲げたプライベート・ルームに引っ込んだ。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!