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あれから10年。
今夜みたいな特別な日を除けば、私たちは以前と同じように暮らしている。
変わったことと言えば、圭ちゃんが中学生になり、家はまた高層マンションに移ったことくらい。
私はそのまま、そこからコンビニ勤めを続けているし、圭ちゃんは公立中学に通っているし、修爾さんは朝早く出掛け、深夜遅く帰ってくる。
…籍は入れていない。
修爾さんが嫌がったから。
もし自分に何かあったとき、私たちが巻き込まれないように、すぐに関係を消して逃げられるようにと、特に子どもと自分の籍は切り離しておきたいというのが、彼の考えだ。
少しばかり不安はあるが。それでも、私たちは互いに唯一無二のパートナーで、子どもをあわせれば家族なのだと、私は勝手に信じている。
そして最後にひとつ。
何も変わってないとは言ったが、私たちの生活には、ひとつだけ大きな変化があったことを述べておく。
そしてそれが、今の私の自信の大きな根拠にもなっているのだが…
彼は、小さなお店が中くらいのお店に拡大し、ビジネスが軌道に乗り始めた頃から、あれだけきっちり怠らなかった避妊をやめた。
そして、そのあとすぐに…
私のお腹に命が宿った。
正真正銘、修爾さんと私の赤ちゃん。
生まれると、修爾さんによく似た美人の女の子で、彼は、美しい華と書いて、美華と名付けた。
無論その子も認知のみで、籍は私に寄せているのだが、彼は、その子名義の口座をつくり、養育費と称して身に余るほどのお金を毎月入れてくる。
単なるリスク分散、税金対策だなんて嘯いているが、それが、前述の"何かあったとき"の私たちへの保険であることには想像に難くない。
子づくりまで、何かあった時を見据え、冷徹に計算ずくでやっていたのかと思うと、相変わらず用心深くて怖い人だとも思うが、それだけ本気で護ってくれるつもりなのだと、私は良い方に捉えている。
「それでは…サー・アルベルト、またのお越しを」
「いや、今夜は勝たせてもらったよ…勝利の女神のおかげ…かな?」
深夜2時。
パチン。
重要客の寄越したウインクに微妙な笑みを投げ返し、ホールスタッフが扉を完全に閉めるのを見届けると、私は、早々に踵を返し、「スタッフオンリー」の札を掲げたプライベート・ルームに引っ込んだ。
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