宿命というやつ

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その日まで私は、本当に平々凡々な、どこにでもいる "赤ちゃんのママ" だった。 「かーらぁすー、なぜ鳴くのぉ~」 人通りがないのを見計らい、童謡を口ずさむと、ベビーカーの前方に座ってあちこち興味深そうに見回していた圭太が、嬉しそうにキャっキャと笑う。 「からすはやぁ~まぁ~にぃ~…」 独特のこぶしがはいった歌声がよほど面白いのか、圭太はドスンドスンとお尻を動かし、拍子をとりながらバンザイをはじめる。 「こらこら圭ちゃん。あんまり暴れたら落っこっちゃうよ、はやく帰ろうねー… うーんもーっ! 圭ちゃんはかわいいっ」 思わず親バカそのものをやっていると、下校中の小学生が冷やかな視線を向けてくる。 「てへっ、失敗失敗」 痛い一人言を呟きながら、圭太の足元に目を向けると、篭の中には今晩の夕飯の具材が入った買い物袋。 ちょっと奮発して、今夜はすき焼きの予定だ。 とはいっても、不況のせいか旦那様のお給料が少な目だから、牛じゃなくて豚肉だけど。
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