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「もう、いいだろう。これだけ大勢サンプルがいるんだ。父と母、二人ぐらい……新しく俺が入る。だからせめて、両親は妹のところへ返してくれないか」
「できません」
セルパンは無慈悲ほどに冷たい声音で告げた。無感情、と言うべきだろうか。
「何故だ? 二人のデータなんて取り尽くしただろう?」
「データ如何ではなく、物理的な問題ですね。オフライン上ではお二人に対し、十分なケアが出来ないでしょう」
「何の話だ? ではせめて、ここで会わせてくれ。それならいいだろう」
セルパンはまた、しばし思考していた。答えが出たとおぼしきその顔は、不気味なことに先ほどと何も変わらない。
「いいでしょう。特別に許可します」
そう告げると、セルパンは踵を返し、颯爽と歩いて行ってしまった。
おそるおそる付いて行くと、見覚えのある部屋の前でピタリと止まった。データ管理室……俺が以前忍び込んだ部屋だ。
セルパンが入り口のパネルを操作すると、扉が開いた。
薄い壁一枚を隔てた室内は驚くほど寒い。そして真っ暗だった。
そんな中、灯りが一斉に点いた。ぼんやりとした灯りは天井から発せられるライトのものではない。部屋の壁一面に展開する大きな水槽のものだ。
よく見ると、小さな水槽がいくつも並んで壁を覆い尽くしているのだった。中にいるのは、魚ではない。もっと大きな塊のようなもの……
「! これは……」
「ええ、脳です。ほんの一部ですが」
人の脳みそが、水中に浮かんでいた。
おびただしい数だ。これで一部だという。
「いったい、誰の……」
俺が尋ねると、セルパンはにこやかに告げた。
「EDENにお住いの方々ですよ」
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