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その日の部活では、全く練習に身が入らなかった。
「ねぇねぇ、加奈。今日の岬、一段とおかしくない?」
「そうなのよ。何か朝からだらしない顔して、目も虚ろで、心ここにあらずって感じなのよ」
「どうしちゃったのかな~?」
「さあ、これが『恋の病』っていうやつなのかもね……」
「岬、ボール行ったよーっ!」
『コツーン!』
「あれれっ? なんらか頭にあらったかなぁ~……、ふにゃふにゃふにゃ~……」
「ダメだこりゃ……」
『キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン……』
私は部活の練習をしていたのか、していなかったのか、あんまりよく憶えていない。
いつの間にか、練習時間が終わっていた。
慌てて着替えると、時夢くんが待っている校門まで自転車を走って押していった。
(早く時夢くんに会いたい……)
すると、彼は――
そこにはいなかった……。
「えっ? ウソ? 時夢くんがいない……。えっ? 何で? 何でいないの……?」
私は辺りを見渡し、時夢くんを探したが、彼の姿は見つからない。
いつも校門の外で待っててくれる、彼がいないことに、私は動揺していた。
いつもだったら、やさしく「岬ちゃん、お疲れ!」って、言ってくれるあの時夢くんがいないなんて信じられなかった。
時間を間違えたのかと思って、学校の時計を見たが、12時をまわっている。
彼は時間に遅れたことは一度もなかったし、いつも先に待っててくれるやさしい人だ。
だからこそ、何故いないのかが、私の小さな脳みそで考えても、その答えが出てこない。
私は、少し不安な気持ちが大きくなっていた。
「た、時夢くーん! 時夢くーん!……」
何だか、急に悲しくなってきた。
なぜなら、彼の家も知らないし、彼がどこから来ているのかも分からなかったから、何か事故にでも遭ってないかと心配にもなったから。
「ど、どうしよう……。何で、時夢くん、いないんだろう……。ううぅ……」
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