令和版浦島太郎

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令和版浦島太郎

 昔々あるところに、浦島太郎という名の漁師がおりました。  彼が浜辺を歩いていると、子供らがカメをいじめているのを見つけました。  かわいそうに思った浦島は、お金を渡してそのカメを買い取ると、海に逃がしてやりました。  数日後、再び浦島の前に姿を現したカメは深々と頭を下げると言いました。 「先日は助けていただき、ありがとうございました。感謝の印にあなた様を龍宮城にお招きしたいところなのですが、残念なことにただいまあちらでは流行り病が蔓延しておりまして、感染予防のため、何人たりとも城を出入りすることができない状況なのでございます。ああ、ご心配には及びません。その疫病は人が罹るものですので、カメである私には関係のないこと」  そこでカメは手をひらひらさせて自分の甲羅を指し示しました。そこには何かが縛り付けられています。 「申し訳ありませんが、これを取っていただけますか」  浦島は紐を解き、それを手に取りました。厚手のまな板の上に薄手のまな板を重ねたような形状です。それぞれの一辺は蝶番で繋がれ、開くようになっていました。 「それは私の主、乙姫様が持たせてくれた通信機でございます。ちょっと、それを開いてみてください。乙姫様とお話ができるようになりますので」  言われたとおり、浦島は薄手の板をめくるように開きました。その裏側に美しい女の絵が描かれています。それはとても人間業とは思えないほどに精巧で写実的な絵でした。 「あなたが、カメを助けてくれたお方ですか?」  驚いたことに、その絵は動き、そしてしゃべりました。  唖然とした表情で何度も肯く浦島に、乙姫は優しく微笑むと、 「その節は、誠にありがとうございました。本来ならばあなた様をこの龍宮城にお招きして、感謝の宴を開きたいところなのですが、カメからお聞きになったとおりこちらでは疫病が蔓延しております。万が一あなた様が感染でもすれば一大事。命に係わることでございます。そのようなわけで、このような形で感謝の気持ちをお伝えするしかないのです」  これほどの美女に歓待されるのなら疫病に罹ってもかまわないが……と浦島は思ったが口に出すのはさすがに自粛しました。 そんなことに気づくはずもない乙姫は話を続けます。 「その代わりと言ってはなんですが、今お持ちの通信機はあなた様に差し上げます。それを開けばいつでも、お食事なりお酒なり、私とともに楽しむことができましょう」 「ということですので、私はこれにて失礼」  カメはぺこりと頭を下げてから、海に帰っていきました。  浦島もすぐにきびすを返すと自分の家に戻りました。
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