10.谷兄弟の凋落――兄の場合

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10.谷兄弟の凋落――兄の場合

 慶応二(一八六六)年 三月。  勇が、広島から戻ってきた。やはり一度目と同じく、長州には入れず成果を挙げることができなかったという。だが、会津や見廻組などがもたらした情報と総合すれば、薩摩と長州に繋がりができているのはほぼ確実だろうということだけはわかった。  動乱の時代は、徐々に、だが確かに、新たな局面に入ろうとしていた。  そんなある日、さくらは屯所の倉で源三郎の隊が捕まえてきた浪士の尋問に立ち会っていた。 「それでうちの小川を斬ったというのか。話すことはそれで全部か」  両手を縛られた二人の浪士は、もう勘弁してくれとばかりに激しく頷いた。肌が見える箇所は痣だらけだ。源三郎が、同席していた平隊士たちにこのまま見張っておくよう命じた。 「奉行所に引き渡すまでは、ここに留め置く。島崎、少しいいか」  隊士の前ゆえ他人行儀にさくらを呼ぶと、源三郎は倉の外に出、周りに人がいないかを確認した。 「サク、思い出したことがある。あの浪士が言っていたことが本当なら、三条大宮の錠前屋……平田屋といったか、そこをあたってみてくれないか。もしかしたら、証拠が得られるかもしれない」 「錠前屋?」  なぜ錠前屋、と尋ねると、源三郎は眉間に皺を寄せ記憶をたぐるように話してくれた。 「確かに、それだとあの人しかいないというのも頷ける。……そうか、前提が間違っていたのか」  さくらは早速、屯所を飛び出した。
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