cold cigarette kiss

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伊吹の一周忌の日、私は1人で井の頭公園に向かった。 まだ咲いて居ない桜並木を行ったり来たりする私を避けながら、人影が足早に通り過ぎていく。 ヒールの靴で痛む足を引きずり、似ているベンチをなんとか見つけて、腰掛けた。 冷たい風にコートの前をかき合わせ、普段は吸わない銘柄の煙草を取り出す。 黒と紫の箱。 伊吹が吸っていた量は。 毎日その量だと肺癌になるよ、と医学生の私だけじゃなくて皆で止めた。 死に殻が山積みになった灰皿を前に、彼はニヤッと笑いながら嘯いた。 先月からジャズバーのバイト始めたんだけど、休憩が15分しかないんだよね。コンビニ行って飯買うには短いし、とりあえず一服すると丁度ぴったりの時間になるって気づいた。というわけでこれ俺の夕食。 煙を空中に踊らせる横顔があまりに格好良くて、私たちは皆、忠告するのを忘れたけれど。 「窒息で死ぬのは、苦しいよ……」 私はふと、そんなことを口走った。 俯く私の顔を、伊吹は煙の向こうから見つめて居た。
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