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合コンに生吹と参加して、ご機嫌で居られるはずがない。そもそも慈が合コンに参加するのは、生吹が誘われているからで、決して自分の出会いの為ではない。だから生吹が女の子と話しているのも、隣でさりげなくボディータッチされているのも、本当は嫌だ。それが顔に出てしまうから激おこなんて言われるのだろう。実際、機嫌が悪いのだから仕方ない。
今日だって、店に着いて早々に生吹と離され、長いテーブルの端と端に座らされてしまった上、向かいに側に並んでいた女の子たちはいつの間にか生吹を囲んでいるのだから、イライラも募るという話だ。
だったら合コンなんか来なけりゃいいと思うのだが、やっぱり自分の知らないところで好きな人に彼女が出来てしまうのは嫌なのだ。
いくら、恋人という関係まで欲張るつもりはないとはいえ、慈を生吹の親友として変わらずに傍に居させてくれる人と付き合って欲しいとは思う。
「慈くん、だったよね? 大丈夫? 具合よくない?」
女の子に囲まれている生吹をぼんやり見ながらビールを傾けていた慈に、そんな声が掛かり、慈は顔を上げた。
目の前にはロングヘアの毛先を巻いた、可愛らしい女の子がいつの間にか座っている。
「ううん、大丈夫。ちょっとぼんやりしてただけ」
慈が微笑むと、彼女も微笑んだ。少し幼い顔立ちにえくぼが出来て、可愛らしい。
「よかった。もしかして、慈くんも人数合わせに呼ばれたの?」
「うーん、人数合わせっていうか……ペット枠?」
慈が答えると、目の前の彼女は可愛らしく笑った。
「ペット? 何それ。確かに慈くん可愛らしい顔してるけど。私にはちゃんと男の子に見えるよ」
「……ありがと。そんなこと言われたの、初めてかも」
いつも慈くんは弟みたいで可愛い、と言われていた。別にそう言われるのは嫌いじゃない。慈にとって『可愛い』は誉め言葉だ。生吹にそう思われたら一番嬉しいと思っている。
「そうなんだ。慈くんオシャレだし、私は仲良くなりたいと思ってるよ」
「え? ホント?」
「うん、ホント。今日のそのブルーのシャツも似合ってる」
そう言われて慈は改めて自分が着ているシャツを見た。これは二十歳の誕生日に生吹がプレゼントしてくれたものだ。ハイブランドのもので高くて手が出ないと話したら、二十歳は記念だから、と生吹がくれて、とても嬉しかったことを今でも覚えている。
「だったら、嬉しいな」
「ホントだよ……仲良くなりたいのも」
そう言って少し頬を赤らめる女の子に、慈は、ありがと、と微笑んでから席を立った。
「ちょっと飲み過ぎたみたいだからお手洗い行ってくるね」
その言葉を残し席を離れた慈は、歩きながらため息を吐いた。
友達としての女の子との付き合いは好きだが、こういう場で出会う、恋愛を見据えた付き合いは苦手だった。そもそも慈は生吹以外の人と付き合う気はない。だからこうしてアピールされると、どうしても一番に罪悪感がきてしまうのだ。
戻ったら彼女とどんな話をしたらいいだろう、当たり障りのない、今見ているドラマとかがいいだろうか――そんなことを考えながら席に戻ると、さっきまで居た彼女の姿が消えていた。おまけに生吹の姿も見えない。
慈は嫌な予感がして、女の子と話していた相崎に声を掛けた。
「相崎、生吹は?」
そう聞くと、こちらを振り仰いだ相崎が辺りを見回してから、いねえな、と呟く。
「女の子も減ってる……慈、親友なら察してやれよ」
相崎はにやにやと笑いながら、生吹モテるからな、と一人で納得したように頷いた。それに、分かった、と頷いて慈は席に戻る。すると、ポケットに入れていたスマホがメッセージの着信を告げた。
『これ以上飲むなよ。おれ、先に抜けたから、お前もタイミング見て抜けて来い。店出たら連絡して』
そんなメッセージの差出人は生吹だった。自分はもう女の子を連れて抜けたから、慈も同じようにしろということなのだろうか。
「……ひとの気も知らないで……」
生吹は慈の気持ちを知らないのだから当然なのだけれど、やっぱりこんなふうに言われたら腹が立つし、悔しい。自分が女だったらこんなに苦労しないし、生吹を確実に恋人にしている自信もあったから、やっぱり切ない。
今頃生吹はあの小柄な女の子の体を抱いているのかもしれないと思うと、なんだかもう全てのやる気をなくして、慈は大きなため息と共に目の前のテーブルに突っ伏した。
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