うちにいるのは、ご主人様?とメイドさん?

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

うちにいるのは、ご主人様?とメイドさん?

 うちには、ご主人様がいます。  ワタクシにとっては過去最若の、まだ高校生になられたばかりのご主人様。  明るい笑顔。頑張り屋。ちょっと寝ぼすけなのが玉に(きず)ですが、尽くしがいのあるご主人様です。  毎朝、寝起きの悪いご主人様をベッドから引っ張り出すところから、ご主人様との一日が始まります。  顔を洗われている間にご朝食の用意。いつもおいしいといって食べてくださいます。  食べて着替えてワタクシ手作りのお弁当を持って、準備万端のご主人様を元気よく笑顔で送り出します。  ご主人様が学校の間は、掃除に洗濯、買い出しです。より美しく、より白く、より安く。メイドにとっては、毎日が戦いです。  夕方、学校からお戻りになったご主人様を玄関でお出迎えしたあと、お食事とお風呂、どちらが先かを確認します。  確認するたび、ご主人様はなぜかいつも変な顔をされます。準備のために必要だから確認しているのですが、何かおかしいのでしょうか。  そうして、お食事とお風呂、学校の宿題を終えられたご主人様に、寝る前の特別マッサージを施します。  最初はご遠慮なさっていましたが、今ではワタクシのスキルのとりこ。なすがままにされております。  そのあと、夢見心地のご主人様は、ワタクシにありがとうとおやすみを言ってくださったあと、自室でおやすみになられます。  そんな、尽くしがいのあるご主人様です。メイド冥利に尽きるというものです。  尽くしがいのあるご主人様には、もっと尽くしたくなるのがメイドの(さが)というもの。  ――とある日、テレビで、『オムライスにケチャップでハートを描いて親愛を示す』というのを見て、そういうのもあるのかと晩ご飯で試してみました。  ご主人様は、それを見てありがとうと言ってくださいました。ワタクシの親愛が伝わったのでしょう。とても美味しそうに食べておられました。  ――とある日、寝てる間に何かあってはいけないのでと、ご主人様のお部屋で一緒に寝てもよいですかと聞いてみました。  大丈夫だからと断られました。  気持ちは嬉しいけどたぶん何もないから、とのことでした。不用心に過ぎます。地震雷火事親父、いつ何が起きるかなんてわかりません。  ワタクシはあきらめません。ご主人様のためならば、たとえ火の中水の中、お部屋の中ベッドの中です。  ――とある日、メイドたるものお風呂でもお疲れを癒さなければと思い、お背中お流ししますとご主人様に言ってみました。  ご主人様は顔を真っ赤にされ、絶対ダメと断られました。きっと恥ずかしがられていたのでしょう。なんといっても、年頃の女の子ですから。  うちにはそんな、笑顔がよく似合って頑張り屋な、ちょっと寝ぼすけでちょっと恥ずかしがり屋の、尽くしがいのあるご主人様がいます。  うちには、メイドさんがいる。  高校生活、訳あってひとり暮らしすることになった私が不自由しないようにと、両親が雇ったメイドさん。  容姿端麗。なんでもできる。ちょっとお節介が過ぎるけど、素晴らしいメイドさんだ。  毎朝、寝坊しがちな私をベッドから頑張って連れ出してくれて、そこから私とメイドさんの一日が始まる。  顔を洗い終えてリビングに行くと、朝ご飯の準備がばっちりできている。そのお味はいつも、驚くほどに格別。  朝の準備を終えたあとは、笑顔と元気といってらっしゃいませで私を送り出してくれる。  私のお昼ご飯は、高校始まって以来ずっとメイドさんのお弁当。バリエーション豊富で、毎日違って毎日おいしい。  夕方、学校から帰って、いつも玄関で出迎えてくれる。ただいまを言うと、おかえりなさいませのあと、ご飯が先かお風呂が先かといつも聞いてくる。  正直なんかむずかゆいので、その言葉はやめてほしい。どういう言葉か知ってて言ってるわけではないと思う。知ってたら言わないだろう、たぶん。知ってて言ってたら、それはそれで問題だ。  そうして、ご飯とお風呂、宿題をやったあとは、寝る前のマッサージをやってくれる時間。  最初は恥ずかしくて遠慮してたけど、一度体験してからはもう病みつき。今ではもうなすがまま。  そのあと、ふわふわしたいい気持ちのまま、メイドさんにありがとうとおやすみを言って、ベッドに入って一日が終わる。  そんな、素晴らしいメイドさんだ。何から何まで本当に助かってる、メイドさんさまさまだ。  ただ、最近はなんというか、素晴らしさがちょっと変な方向にいっているというかなんというか。  ――とある日、晩ご飯がふわとろ系オムライスだったんだけど、なんと、卵の上にケチャップでハートが描かれてて。  どうリアクションしたらいいのか困ったけれど、ニコニコ顔のメイドさんには何も言えず、とりあえずありがとうとだけ言っておいた。ちなみに味は絶品で、洋食屋さん顔負けなくらいだった。  ――とある日、私がひとりで寝ているときに何かあったらいけないからと、私の部屋で寝てもいいですかと聞いてきた。  大丈夫だからと断った。  何かってなんだろう。自然災害? 一緒に寝ても寝なくても同じだろう。泥棒とか? やっつけてくれるんだろうか。うん、なんかやっつけてくれそうだ。  とはいえ、一緒に寝てたから助かったって状況ってそうそうないと思う。だからきっと大丈夫。  ――とある日、お風呂に入ろうとしたときに、お背中をお流ししますと言われた。メイドたるもの、お風呂でもご主人様を癒すべきだとか言ってた。  絶対ダメと断った。私のためを思ってくれてるんだろうし気持ちはありがたいんだけど、さすがにダメ。いくらなんでも、男の人と一緒に入れるわけないじゃんか。  うちにはそんな、容姿端麗でなんでもできる、ちょっとお節介が過ぎてちょっと変わった、素晴らしいメイドさんがいる。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!