帰還いたしました

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「今回は私自身が経験した数少ない体験談をお話したいと思います。あらかじめ言っておきますが、この話にオチはありません。幼少期に私が体験し、今になっても夢だったのか現実だったのか……判断がつかないそんな話です」 一旦マイクを切ってBGMの音量を調整してから、ミュートを解除する。 ──タイトルをつけるとしたら『帰還いたしました』、でしょうか。 私は小学校2年生で両親が離婚するまで、京都に住んでいました。 京都とは言っても観光地からは外れており、どちらかと言えば奈良よりの地域です。 昔は呉服店を営んでいたという我が家は間取りだけは広く、通りに面した部分が店舗になっていました。 その当時は「山中のおじさん」と呼んでいた男性が自転車屋を営んでいました。 風呂場とトイレが外にあり渡り廊下で繋がっていたり、台所が土間になっていて竈が残っていたり、二階には「元丁稚部屋」と呼ばれる使い道のない広間があったりと、なかなかに勝手の悪い古い家でした。 幼い私の記憶では、その日は珍しく家には誰もいなかったはずです。
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