二◇形勢一変

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 ひとしきり泣いて、少しの平静を取り戻した様子の玄間は、土間の方へ視線を向けるとこくこくと頷いてみせた。 「あ、あぁ確かにあそこに。昨晩、野城様が仰った通り、ざると桶との蕗ノ薹を準備して寝て……今朝方、雉狩りへ出る前に山菜を入れる籠を取りにここへ寄った際も、ざるも桶もなんら変わりなくそこにあった……」 「じゃあ、誰かが雉狩りに出ている間にざるをすり替えた。それか爺さんが寝てる間にすり替えて、朝にはあの蕗ノ薹もどきになっていたかもしれないってことか……けど、一体、誰が……」 「か、魁様……信じてくだされっ、私は決して毒を盛ることなど、ましてや大切な子らに毒物を与えるような間違いなど絶対しておりません! 山の物を採る際には、しっかりとこの目で見定め、山菜でもきのこでも、木の実でも、私は決して」 「わーかってるって爺さん」  ひしと腕を掴んでくる玄間の訴えに、魁は真剣な面持ちで頷いた。再び泣き出しそうな老爺の表情に、噓偽りなど微塵も感じる要素はない。  それに魁が幼い頃には既に、玄間はこの厨を切り盛りする長として存在していた。  長年、食事を与えることに時間を費やしてきた者が、食物と毒物とを今になって見間違えるとは思えない。  魁は確信していた。玄間ではない誰かが、悪意をもってこの厨に入ったということを。 「なあ、爺さん。俺らと雉狩りから帰ってきて、そのまま爺さんはここで朝餉の支度を始めたのか?」 「いやまず、魁様たちが仕留めた雉の血抜き処理をしてからここへ。それから採ってきた山菜を水に浸して、そのまま朝餉の調理を」 「それで食事の間に箱膳運んで、俺らが食ってる間はずっと厨にいたのか?」 「ええ、と、食事を運び終わってからは……調理の間にお湯を沸かしていたので、それを持って裏庭で雉の羽根剥ぎをしておりました」  言葉を頼りに、魁は玄間の行動を思い浮かべながら厨の中へ視線を巡らせた。
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