第九章 氷原に咲く春告げの花

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 ***  「東京は久しぶりだよね。どこかに付き合う?」  円佳の実家を出てホテルに向かう時、恭貴は両親に()いていた。  明日の昼に帰るということなので、午前には余裕がある。  「大丈夫。観光バスを予約してるの。  それが終わったら新幹線で帰るから、二人はゆっくりしててね」  観光バス……有名な黄色いバスだろうか。  地元なのに、円佳はまだ利用したことはない。でも、恭貴と一緒に参加してみたいと思った。  「分かった。それじゃ、帰る時に見送りに行くよ」  「そこまでしなくてもいいのに。でも、来てくれるなら嬉しいわね」  親にとっては、いつまでも子供だと分かる。微笑ましく見えて、円佳は小さな笑みを浮かべた。  「円佳と一緒に行くよ。時間は……」  新幹線の出発時刻を聞く恭貴は、やっぱり子供のように見えて、円佳は可笑(おか)しかった。
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