スーサイドリスト 「新生活のセレナーデ」

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心底可笑しそうだ。気色の悪い笑顔でこちらを見ている男がポケットを弄って、煙草を取り出した。毎回違う銘柄は、いつも違う女にもらっているのだと言う。それすらも嘘なのだろうか。 「簡単なゲームをしてたんだー。そのお坊ちゃんが落ちるか、落ちないか。暇は人を腐らせちゃうから。俺たちも、暇つぶしにね? 負けたら相手の言うことを聞く。ね? シンプルなゲームでしょ?」 安いライターで火を点ける。その煙草を吸って、ゆっくりと紫煙を燻らせた。慎之介が何を言わんとしているのかわかって、吐き気がしてくる。こいつは知っているのだろう。朝佳が何に苦しんで、あんな生活をしているのか。 「絶対勝てると思ってたんだ。だって君は愛情に飢えた可哀想なお坊ちゃんだもんね? だから、相手にはハンデをあげた。どんな障害物を作っても良いよ、俺がお坊ちゃんに朝佳ちゃんのこと、吹聴しても良いし、仮に朝佳ちゃんが本気になっちゃっても、付き合いたいなんて言い出さないようにしても良いってね」 それどころか、こいつと、その相手とやらが全て仕組んでいたのだとしたら。 途方に暮れるくらい最低な行為だ。暇つぶしのために一人の人生を壊した。そう、思っただけで拳に力が乗ってくる。 「まさか、君みたいなプライドの高そうなお坊ちゃんが土下座するなんて、あれは傑作だったなあ。いやあ、笑った。傷はもう、綺麗に消えちゃったんだね。簡単すぎて面白くないくらいだったけど、そこそこ楽しめた」 「何が言いたい」 「何も知らずに惚れちゃって、何も知らずにお姫様に守ってもらうお坊ちゃまって滑稽だよね」
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