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スーサイドリスト 「殺人級のラブコール」
兄の車は今日も新車のように綺麗に整っている。促されるままに助手席に乗り込んで、大きな振動もなく発進しては移り変わる景色を眺めていた。
何も言わぬままに車が止まる。それが見知らぬマンションの駐車場であることを確認していれば「少し待ってろ」とだけ告げた兄が外へ出て行った。
何の興味もなさそうな兄が、颯爽と歩いて行く。
金を貸してほしいとも言わなかった。頭を下げることも、土下座することもなかった。兄は、その俺を咎めることなくここに来た。
頼る相手もいない。あの男——親父の反感を買ったところで、何もできないことはわかっていた。ただの惨めな弟を、兄は何も言わずにつれ出した。その意味に気付けないほどクソじゃない。
深呼吸のように息を吐いた。
自分の至らなさに何度も殴られる。いっそ、本当に拳で殴られたいくらいだった。何も行動せずに駄々をこねていただけの俺と、兄貴は違う。あの男は、全てを勝ち取るために必死に今の立場を築き上げた。
「春哉」
思考に浸っている間に隣のドアが開く。ひやりとした空気が入り込んできて、顔をあげた。兄は俺の顔を見てから運転席に座り込む。同時に俺の太ももに紙袋を置いて、何事もなかったかのように、フロントガラスを向いた。
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