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祖父から聞いた話。
祖父が十二、三歳の頃、親戚の家に跡取りの赤ん坊が生まれた。
季節は秋。
田んぼには重く実を結んだ稲が頭を垂れ、村は総出で刈り入れに忙しい。
だが跡取りの誕生ともなれば、親戚としての義理を欠く訳にも行かない。
そこで祝いの品を届ける役目は、少年だった祖父に託された。
親戚宅へは小さな山を越えていかなければいけないのだが、子供の足でも半日あれば往復できる。
ぎっしりと祝いの品が詰まった荷物を背負い、祖父は午前中早くに家を出た。
無事に用事を済ませ、返礼の品を担いで帰路についたのは昼を少し回った時刻だ。
途中で寄り道をせず、真っ直ぐに山を越えれば暗くなる前に家に帰り着く。
そう思ってせっせと山道を歩いていた祖父は、ある事に気がついて足を止めた。
さっき通り過ぎたはずの見覚えのある枝ぶりの木が、なぜか目の前に立っている。
見間違いかとも思ったが、どう考えても先程見た木と同じものだ。
山の中の一本道、迷うはずもない。
狸か狐にでも馬鹿されたのか……。
祖父は自分の両の眉毛に唾をつけると、ゆっくりと注意して進み始めた。
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