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…一瞬、沈黙した後、とっさに心が決まった。
「イタリアで、ちょい悪のおじさんに、何か吹き込まれてきたでしょう!」
そう、茶化してごまかした。
彼が吹き出して
「なんでわかったの?
3日通ったバーのバーテンさんに、いい人がいるのか、と聞かれて、『男は、いくときはいかなきゃダメだよ』とハッパかけられた」
そんな風に言うから、もうガラリと雰囲気が変ってホッとした。
もらった大判の写真を、「ありがとね」って言いながら、大事に紙筒に戻す。
でも、和音くんはすぐに真面目な顔に戻って
「今の、本心だからね。まさか他に良い人がいるなんて、言わないよね」
「それはないけど…。でも…、そんなこと急に返事できないよ」
「何となく、分かってくれてると思ったのに…」
「あのね、ハタチ前後の女子ならともかく、30も半ばになると、異性に過剰な期待はしないものよ。
私は、来るものは拒まず、去る者は…の主義だから」
「でも、俺のこと、気に入ってはくれてるよね?」
「それはね。あなたの写真は好きだし、あなたの仕事ぶりも好きよ」
「え~っ。それってごまかしてない?」
「だから、和音くんがそう思ってくれてるなら、ちゃんと考えるから…」
不満だなぁ、その言い方…とか、ブツブツ、なんか子どもが拗ねたような口ぶりに、思わずふふっと笑ってしまった。
「あ~、笑ったな。悔しいなぁ。俺が鞠さんのこと想っているほど、鞠さんが俺のこと想ってくれてないっていうところが悔しい」
「あははっ」
「こうなったら、なんとしてもおとしてやる。ねぇ、鞠さんが貰って嬉しい物ってなぁに?」
「え~。別にないなあ、バッグとか、アクセサリーとか集めていた時期もあったけど、今は好きなものだけ最低限の数あればいいな、って思ってるし…」
「それじゃ、どこか行きたいところは?」
「それはいっぱいあるけど、私も連載の仕事休めないし、あなただってそうでしょ?」
「う~ん…」
ふと、お互いのグラスが空になっていることに気づいた彼が、バーテンさんを呼んだ。
冷えたグラスが運ばれてきて、彼が私のグラスの縁に、自分のグラスを軽くチンっと当てて何度目かの乾杯。
「それじゃ、鞠さんが恋人を選ぶときの基準ってなに?」
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