【Prologue】

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「どうだ? 右手一本で捻じ伏せられる気分は」 「ええ私上最悪です」  ちなみに何故彼がご立腹なのかと申し上げますと、私の淹れた珈琲の味が気に食わないのである。 「……全く、秘書以前の問題だ珈琲一杯まともに淹れられないのかお前は」  何が一部上場企業の重役よ、誰が御曹司よ、心が狭いったらありゃしない。ちっちゃい男。たった珈琲一杯で目くじらを立てていらっしゃるご様子。  まだ記憶に浅い15分前のこと──秘書課オフィスで雑用業務をしていると毎朝のことながら胡散臭い爽風が吹いたのだ、表メンを背負った本部長のお出ましによって。 「──諸君。おはようサン! あぁ柊、甘い珈琲淹れて?」 「……はい、すぐにお持ちいたします」  豆もお気の毒様。本部長は、ブラジル産最高級豆を使用した珈琲をお気に召している。そこに角砂糖を5つ落とすのがお決まりだそう。 「甘党だなんて本部長可愛い!」 「だろー? 甘いモンは疲れを癒すってよく言うからな! 重役の肩書き背負ってるだけで肩凝るし?」 「ほ~んと本部長って重役に見えませんよね、威張ってなくて親しみやすさ抜群!」 「それ俺の威厳0って事ー?」  ──にしたって誰が、可愛い?  親しみやすさ0のこれが? ちゃんちゃらおかしい。それ嘘っぱちの表メンですから!  と何度口をついて出そうになったか。
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