その時は突然に

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「あっ!総司や!」  壬生寺に入ると境内で遊んでいた子供たちが寄ってきた。  屯所が移る前、沖田に懐いていた子供たちである。 「久しぶり、みんなちょっとの間で大きくなったね。」 「ほんまに暫くぶりやで。今日は遊びに来たん?」 「いや、お墓参りだよ。」 「ふぅん。せやけど遊んでいくやろ?」 「遊んで遊んで。」 「お初姉ちゃんも!」  沖田との再会に大喜びの子供たちが、沖田と初にせがんだ。 「じゃあ、お墓参りが終わったらちょっとだけね。」 「うん!」 「うちは先にこの子らと遊んでるわ。」 「うん、お願い。」  沖田が墓に向かうと、初は子供たちに囲まれた。  壬生寺には亡くなった隊士の多くが葬られている。  池田屋で亡くなった三人、その他殉職者や処罰された者など。  それぞれに思いを馳せながら、沖田は最後の墓の前に来た。  芹沢鴨、壬生浪士組時代の筆頭局長である。  紆余曲折を経て自分が殺したが、この人のことを沖田は近藤や土方へのものとは違う憧れを持っていた。  そんな芹沢の墓に手を合わせている時だった。 「総司!お初姉ちゃんが!」  子供の一人がこっちに走りながら叫んでいる。 「何かあった?」 「お初姉ちゃんが、急に走って出てったで。何も言わんかったでようわからんけど。」 「ええっ!?」  先程子供たちに会ったところへ戻ると、門の付近でみんながおろおろしている。 「どっちに行った?」 「あっち。何や喧嘩しとるかも…」 「喧嘩?」  指さされた方を見ると、一町弱離れた先で、初が食い詰め浪人としか思えない者と対峙している。  しかも相手は二人。  そしてここからでもわかる険悪な雰囲気。  普段、気は強いし行動力があるとは言えここまで無謀な事をするような女ではないはずである。  状況や過程は全くわからないがとりあえず良いものではなさそうだ。 「良いと言うまで寺から出ないで。」  真剣な沖田の声に子供たちが頷いたのを確認して、沖田は初の方へ走っていった。
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