空に祈る少女

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空に祈る少女

初夏の朝。群青色の空の下、故障しそうなほど耳の鼓膜をくすぐっていく、蝉時雨。それは必要異常にけたたましすぎて、外出するのも憚れる。ついさっき登ってきた、太陽の眩しさも過剰だから尚更だ。 時刻はまだ早朝4時半という、街の生活音も聞こえてこないような時間なのに、さすが夏。随分と日の出が早い。まるで、フライングでもしているみたいだ。 そして何よりも癪に障るのは、この肌がべとつくような蒸し暑さ。次々と頬には汗が伝い、走る気力が低下の一途をたどっている。そんな中、林のごとく立ち並ぶ住宅街を颯爽と駆け抜けた。 どうしてこんな早朝から走っているのか。学校に遅刻しそうだからか。 いや、違う。ただの早朝ランニングだ。 とはいえ、陸上部に所属しているわけではない。すなわち、無理にやる義務はない。けれど運動部ということに変わりはないから、始めた日課。 最初こそは筋肉痛になるばかりで、やめようかと何度も悩んだ。しかし何度も続けている内に、家から学校までの通学路・4キロも楽勝になった。 でも、今は夏。数日前までの春らしい温かさはどこへいったのやら。まるでサウナの中にいるみたいに、どこもかしこも暑苦しい。 これでは4キロも夢のまた夢。僕の通う旋風高校にたどり着くまでに倒れてしまう。たまらず近くの河川敷で休息をとることにした。 半分過呼吸のような荒い息を整えながら、緑の草木が生い茂る草原に腰かける。それから肩にかけていた群青色の鞄を足元に置き、水分補給をした。カラカラに乾いた喉へ新鮮な水が蓄えられ、生き返ったような感覚に陥る。 「くーっ!気持ちいい!!」 案の定、長距離をしたあとのスポーツドリンクという、ご褒美は最高だ。頑張った分、うまく感じる。 爽やかな気分を覚えていると、突然のつむじ風が頬を撫でる。それと共に、誰かが吹き出しているような声が聞こえた。その高さから女ということが、明らかになる。
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