1話 目覚めは始まり

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1話 目覚めは始まり

 私の記憶はぶつりと途切れている。  ただ、下校途中だったのは間違いない。  友人の危ないって声と、つんざく急ブレーキが最後に聞こえた音だと思う。  ただそのとき私が考えてたこと。  13周目となる乙女ゲーの攻略だ───── 「──お嬢様、お時間です」  聞きなれない女性の声に、私は驚きながら目を覚ました。  むしろ飛び起きたと言っていい。  私の目の前には、純メイド姿のおばさんがいる。 「あ、あんた、だ………」  言葉が濁る。  ……あ、この人はデジーだ。 「お嬢様、何をおっしゃってるんです?」 「……寝ぼけてた…ごめん」  ん? この言葉にも違和感がある。  こんなフランクな言葉遣い、してたっけ?  ぼりぼりと頭を掻きながら、鏡台の前に座ると、デジーが髪を梳かしに移動してくる。  だけど鏡の中の顔に、私は驚きで椅子から落ちかけた。 「ど、どうかされましたか? レイヤお嬢様!?」  ………そう、こいつ!  いや、私だけど!  この顔、間違いなく、レイヤだよ!!!!  この青銀髪のロングヘアに、ツリ目の緑の目、ドレスはいつも寒色で、ですわですわのウゼー女!  息を飲みながら自分の顔をペタペタ触るが、いやぁ、混じりっけなしのレイヤだな………  あの悪役令嬢のレイヤ……… 「つか、なんで、レイヤなんだよ……!」  そう呟いたのには理由がある。  これは間違いなく、私がどハマりしていた乙女ゲー『天空のソフィア ~夢の国を救う天使は君だけ~』という、星座の神様をたぶらかす乙女ゲーだ。  ざっくりいうと、イケメンの12星座の神々と一緒に、試練と呼ばれる夢の国の再建を任される。  その再建は夢の国の女王試験でもあり、主人公のピチピチゴールドヘアの可愛いソフィアと、悪役令嬢であるツンツンレイヤが行なっていく。  ラストは夢の国を治めるか、イケメン星座の神々の誰かを選ぶか。  基本的に再建がうまくいかなければレイヤに全てを奪われるストーリー。  ただ……… 「つか、セーブポイントどこだ、これ……」 「お嬢様、何をおっしゃってるんです? 今日はこれから神々との謁見。女王の試験が始まるのですよ?」  おっと!!!!  こっち側の最初っスか………!!!!  最初からなら、まだ救いがある、かも………? 「ほら、お嬢様、身支度を整えて、朝食をいただいてください。全くあなた様ったら……」  デジーのお小言を頭の後ろで聞きながら、私はレイヤのラストを思い出していた。  それは、レイヤが夢の国に『現実』を持ち込んだ罪で、永久の闇に閉じ込められ、さらには存在が消滅していくラスト─── 「はぁ……参ったな」  あぐらをかいて、腕組みしながら鏡をにらんだとき、ぱしんとデジーに叩かれる。 「お嬢様、はしたないですよ」  座り直しながら、目の前に写るレイヤを見つめ、問いかける。  私は死んで、この世界に来たの?  それとも、ただの夢?  鏡のレイヤは答えを言わない。  ただ、薄く微笑む顔がある。  ……どちらにしろ、私はここで生きていくしかないんだ。  なら、楽しむっきゃないよねっ!!!
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