第十二章 一 かけがえのない人

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「おい、デミルカ……!」  ドレスの裾を摘まんで、ヒールを鳴らしながら石畳を走る。 「アレン、待ってアレン!」  アレンは私の声に気づいたようで、不思議そうにこちらを振り向くと手綱を引いて馬を停めた。  私はホッとして走るのを止め、急いで呼吸を整えて、少し離れた先にいるアレンに届くようにと、――叫んだ。 「マルグレト様に話すわ。話した上で貴方を側に置く許可をもらう。すぐには話せないかもしれない。ずいぶん先になるかもしれない。話しても許可が下りないかもしれない。許可が下りても、その頃には貴方の気持ちが変わっているかもしれない。でも、もし、もしその時に、貴方がいやじゃなければ、王宮に来て私の護衛を務めてほしい。貴方は私にとって、代りなんて見つけられない、唯一無二の、大切なパートナーだから……!」  衝動的に出た言葉は、自分で驚くほど、自分の望む答えそのものだった。  なぜたったこれだけのことが今まで出てこなかったのか、不思議なくらいに。  アレンは馬を返し、ゆっくりと私の目の前まで戻ってきた。  祈る気持ちで馬上のアレンを見上げ、返事を待つ。 「デミルカ様に振られたので、先人の知恵に従って、グランシェドで結婚相手でも探そうと思ってたんですけど……」 「アレン……」 「そんな暇なくなっちゃったじゃないですか。旦那様だけでなく、国王陛下からも騎士の叙任を受けようと思えば、遊んでないで訓練に励まないと」  アレンはそう言って笑う。  その温かさに涙が出そうになるのを、唇を結んでぐっとこらえた。
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