1 裏切りの世界

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1 裏切りの世界

 「レノくん、君はここで死んでもらうよ」  ドラゴン討伐後、突如仲間から言われた言葉。  「え?」  思わず出た少年の声が洞窟に響いていた。  少年の仲間、ノートンの言葉を受け、少年は呆然。  仲間の3人の目つきはすっかり変わり、その瞳は邪魔者を見るかのように、こちらを睨んでいた。  ―――――俺が何をしたっていうんだ。俺は勇者として、ここまで頑張ってきていたというのに。  そんな感情が少年の胸に湧き出てくる。  少年が黙っていると、ノートンが再度話し始める。  「なぜだ、とでも言いたげな顔を浮かべているね…………確かに君は勇者として活躍してくれた。そのたびに君は周りから評価され、遂にはドラゴン討伐まで任されていた。こんな10歳の子どもは世界のどこを探してもいないだろうね」  「…………」  「でも」  その瞬間、ノートンの顔が見たことのないぐらい歪む。他の2人も不気味な顔を浮かべていた。  「ガキに指示されるのはもううんざりだ。なんで俺たちがガキに指示されて動かないといけないんだ? 勇者だから? ガキのお前に勇者の紋章があるから? 周りはみんな勇者、勇者、勇者。メンバーの俺たちになんて気にもとめない」  ノートンに続き、女も男もぶっちゃけていく。  「私の家族は『小さい子どもといえども、あの子は勇者だから、いい顔をしておきなさい』と口を揃えていうの。本当にうんざり」  「でも、俺たちがそんな風に苦しむのは今日で終わり。お前が死ぬからだ」  「俺を殺せば、お前ら捕まるぞ」  そういうと、3人は一斉に笑いだした。その笑いはまるで少年をバカにしているかのよう。  「お前は俺たち(・・・)に殺されるんじゃないんだよ。お前はドラゴンにやられて戦死。死体も全て燃え尽きて、回収できなかったという報告をするんだ。どうだ? いいだろう?」  まただ。  また裏切られた。  前世で散々裏切られてきたのに。この世界でもまた裏切られるのか。  バックの中の魔石の数をそっと確認。中には10個の魔石しかない。  これだけしかないのか…………まぁ、逃げることはできる数か。  少年は覚悟を決め、その場を去るように走り出す。  「おい! 待て!」  はっ。殺されるっていうのに誰が待つか。  幸い、少年の背後は洞窟の出口に繋がる方向だった。  小さな体を動かし、必死に走り続ける。洞窟には複数の足音が響いていた。  ――――やばいな。このままでは追いつかれる。  バッグの中の魔石を取り、魔石の魔力を自分の体へと流す。  少年の体がもう少し魔力を保持しやすいものであれば、彼はこんな苦労しなかっただろう。  ――――今回の体も厄介だ。  少年は自分の体に文句を言いつつ、自分に魔法をかけ、移動速度を上昇させる。すると、足が軽くなり機敏に動かせるようになった。  これで追い付かれることはないだろうけど…………。  ちらりと後ろを見る。予想通り仲間のメリアスが弓を構え、少年を狙っていた。  メリアス()は弓使い。狙いは少年の足。  「チェーシングザラット」  メリアス()がそう唱え矢を放つと、猫が具現化し、少年に向かって走り出す。  必死に逃げるも、1本の矢が少年の右足に刺さった。  「つっ!」  自分が教えた魔法にやられるとは。このやろう。あの魔法を教えるんじゃなかった。  でも。  ここで死ぬわけにはいかない。どうせ死んでも同じようなことを繰り返すだけだ。どうせまた裏切られる。  少年は痛みを堪えながらも、出口に向かって走り続ける。  女以外の2人はというと走って追いかけていた。  これは外に出ても追いかけてくるな。  しかし、この洞窟は国境近く。彼らもさすがに国外にまで追いかけはしない。国外に出れば少年の勝ちであった。  「っあ゛!」  出口目前で右足に走る激痛。一瞬視界がぐらりとゆがむ。  足には1本の矢が刺さっていた。    「ざんねーん。その毒矢はレンのためにわざわざ用意していたの! だから、観念して止まりなさい! ガキンチョ! そんでもって死になさい!」  そんな女の叫びが聞こえてくる。  クソっ! クソっ!  彼らなら信頼できると思っていた少年。  しかし、その考えがバカであったことに気づき、歯を食いしばる。  結局少年には信頼できる人間はいない。結局みんな裏切る。  それでも生きないと――――――――また知らない世界へ送り込まれる。  死んで、また最初からなんてもうまっぴらだ。  元の世界に戻りたい。あのクラスに戻りたい。  少年、レノはそう自分を鼓舞して、月明かりが差し込む出口に向かって、そして、国境を目指して走り続けた。 
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