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いっけなーい、鉄板! 鉄板! 私、至って普通の女子大生、大塚海帆☆
そして私を追い詰めているのがペットのなっちゃん☆ お家でお留守番をしていた忠犬なっちゃんは、ご主人様(私)の帰りを待っているうちに闇落ちしそうになっていたの☆ 急いで戻ったら大変! なっちゃんに消毒と称して昨日の出来事を自白させられそうになっているの☆ え~っ、私、どうなっちゃうの~!!?☆
次回、「うちの子は素直ですか?9」お楽しみに~~!!
現実逃避はここまでにして、順を追って説明しよう。
夜通しご主人様(私)を待っていたばかりに魔に取り込まれそうになっている愛犬(なっちゃん)の危機を察知した私は、もちろん電車なりタクシーなりで速やかに帰るつもりだったのだが、神田さんのご厚意により車で送ってもらうことになったのだ。
まさか男性の部屋から朝帰りしたにもかかわらず、そのまま別の男性のところに帰る日が来るなんて……と、あわあわしたけれど。もう時すでにお寿司だ。お寿司。これでもかなり慌てている。
神田さんの安全運転により自力より早いタイムでマンションの前に滑るように到着し、厚く、厚く!御礼申し上げ素早く下車した。すると……なんということでしょうか。なっちゃんが、エントランス前で、待っているではないか……!
HACHI……!(ハリウッド版)
思わず両手を広げると、なっちゃんが吸い込まれるように私に飛びついてきた。なっちゃんのいじらしさに心の涙腺崩壊。うちのハチかわいすぎ……っ
「夏樹くん。ご主人様が戻ってきてよかったね?」
ハッ! 神田さんがいたんだった!
我に返り感動の再開は一旦ストップだとなっちゃんの背中をタップするが、なっちゃんはムギューッと腕を緩めない。
「なっちゃん、無視は良くないわ」
「………みほちゃんがお世話になったようで。送迎もありがとうございました」
ものすごく不本意だという雰囲気を醸しながら、ものすごくゆっくりとしがみつくなっちゃんが離れた。明らかに本音は違いそうな様子だったが、思ったよりもしっかり挨拶を返した。偉いぞなっちゃん! 出来る子だ!
「いいえ。楽しかったし、ね? 海帆ちゃん」
どこからどう見ても威嚇中のなっちゃんの様子に神田さんは眉をしかめるでも無く、彼はそれはそれは色っぽい含みを持たせた流し目を私に向けた。
そ、そんな言い方ダメですって! 何か楽しんだみたいじゃないですか!?
楽しんだようでしたけど、それは勘違いというか! 酒の過ちというか!?
なっちゃんに見えないように慌てる私を見て満足したのか、神田さんはいつも通りの調子で去って行った。
最後に爆弾落として行ったけど、わざわざ助けてもらってしかも介抱(?)から自宅まで届けてくれるなんて、神田さんは優しい男である。最後に爆弾落として帰ったけど。
爆弾が火を噴く前に一緒にアイスでも買いに行ってご機嫌をとろうとした下心に気づかれたのか、なっちゃんは無言のままである。生唾を飲み込み、決死の思いでコンビニ……と呟くとゆるりと手を引かれマンションの中へと入っていった。あ、行かないんですね。
そのまま私の部屋に入るのかと思いきや、その手前のなっちゃんの部屋に連れ込まれた。
おや……?
私を先に押し込み、なっちゃんの大きな体が退路である扉を塞ぐ。
おやおや……?
ゆっくりと振り返ると、靴も脱いでいないのに廊下に引き倒され激しくキスされた。カチリと歯が当たると宥めるように舌がぬるりと這う。あまりの勢いに驚いたのか、体がぶるりと震えた。何度かなっちゃんの肩を叩いたが、硬く冷えた床に寝ても痛くないように支える手の優しさと温かさに気づくと、止めて欲しい気持ちが霧散して結局は受け入れていた。
銀糸と共に離れていく熱をぼんやりと見ながら、やっと一息ついた。今度こそ発しようとした静止の言葉が出る前に、なっちゃんの唇が熱と一緒に耳を食むように舐めあげた。生々しい音が首筋から背中まで落ちて響くようだった
。その熱が首筋まで弄るように降りた時。
ピクッとなっちゃんの動きが止まり、ゆっくりと体を起こした。
「──ごめん。中に入ろう」
そう言ったなっちゃんは久しぶりにキラキラした天使顔をしていた。とても先ほど暴挙に出た人物には見えない笑顔だ。いや、馬乗りになったままなので同一人物なのだが。
おやぁ……?
優しくゆっくりと引き起こされ、なっちゃんの部屋の中へとやっと入る。なっちゃんの部屋は生活感があるようで無く、モデルームのようだった。
正気を取り戻しリビングでお茶でも飲みながら話をするのかと思いきや、そのままリビングを抜けて寝室まで手を引かれ、ポスンとベッドに倒された。
これは、もしや……?
なっちゃんは倒れた私に再び馬乗りになると、耳の後ろに指を這わせた。
「──ここ」
「ん、え?」
触れるか、触れないかの加減で這う指がくすぐったい。
「ここに、キスマークついてる」
「……えっ!?!?」
耳の後ろにキスマークだと……?
か、神田さんんん!? なにしてくれちゃってるのカナ!?
つい身に覚えがある人のリアクションで固まってしまった私の様子をじっとりと見ていたなっちゃんは、もう一度ふわりと口端を持ち上げると首をコテリと傾けた。
「……消毒、しなきゃね?」
どうやら、うちのハチは闇落ちしてしまったようだ。
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