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うちの子は無事ですか?
──なんでもない夏の日。私の世界は変わった。
あぁ、これは本当に”うなるほど暑い”ってやつだ。間違いない。テレビの天気予報のお姉さんは嘘をついていない。家から出てすぐなのに、麦わら帽子の中から汗が流れてくるのがわかる。
日差しは地面に反射し、目の奥をジンジンと刺激してくる。
空は高く澄み渡り、遠くの方に入道雲が見える。
サンサンと憎らしいほどの直射日光が肌を刺す。
聞き分けられないほどの種類のセミの鳴き声がうるさい。
「焼き肉になった気分……」
八月に入り、私は母方の祖父母がいる田舎へ遊びに来ていた。
毎年来ている祖父母の家に目新しいものがあるわけでも無く、健やかに惰眠を貪っていた。寝る子は育つのだ。
しかし、今年はついに昔気質の祖父に『こどもは外で遊ばんかい』と追い出されてしまったのだ。
なんてことだ。
こんな暑い日に外にいたら熱射病で死んでしまう! 昔と今は違うんだ!と、ここぞとばかりに目を潤ませ訴えたが、初孫であり、目に入れても痛くないと評判のかわいい孫である私の言葉はついぞ届かなかった。
誠に遺憾である。
この前までは、ちょっと甘えればホイホイ言うことを聞いてもらえたのに……。なぜだ……もしかして小学三年生になり大人の魅力が増えた分、子ども独特の愛らしさに陰りが……?
孫人生最初の挫折を味わいながら、とりあえず歩き出したものの。この灼熱地獄の田舎で何をしろと言うのだろうか。
とりあえず、立ち止まったらミディアムレアになってしまうので、行く宛もなくトボトボと足を動かした。暑い道をテクテク、テクテク歩く。こんなに暑い日を喜んでいるのは道端に群生している向日葵ぐらいだろう。
私はちっとも嬉しくない。ちぃーっともだ。
クーラーがキンキンに効いた部屋で毛布に包まり、何もしないという贅沢を味わいたいのだ!
すると、こんなにも! 暑いのに、どこからか小さな子どもの笑い声が聞こえてきた。声のする方へ視線を向けると、河原で三歳ぐらいの子どもが家族と遊んでいた。
楽し気な子どもの笑い声につられて、自然と顔が一緒に緩んでいた。
キラキラと光る水面と、サラサラと流れる水の音に一瞬でも暑さを忘れることが出来た気がした。
ーーーーー危ない!!!
頭の中に響く声
パチッと何かが頭の中で弾けた。
視界が歪み、頬から口まで何かが伝い降りた。唇を濡らしたのは、自分が涙を流しているからだった。
急に胸の中に喪失感と、焦りと、不安と、恐怖が。
混ざり、うねり、暴れて支配する。
──私の子どもはどこ?
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