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深夜の着信
十年くらい前に、知人から教えられた話。
勤めていた会社を辞めたある男性が、新しい職場へ通うためにと引っ越しをすることを決めた。
その男性は特に幽霊や祟りの類は気にしないタイプで、不動産屋へ赴いた際には「過去に何があったとかは別に気にしないから、できるだけ安い部屋が良い」と交渉を持ち掛け、最終的には前の住人が自殺をした部屋で良ければということで、契約を取ることができた。
心理的瑕疵がある物件であるため、他の部屋よりも家賃は安い。
部屋自体はきちんとリフォームがされており、生活をするのに支障もない。
これは良いと納得し、男性はその新しく借りた部屋で生活を始めたのだが、引っ越して二週間が経過した頃から、おかしなことが起きるようになった。
朝起きると、知らない番号から着信が入っている。時刻を確認すれば、深夜の三時近く。
間違いか悪戯の可能性もあると、男性は最初は無視したそうなのだが、深夜の着信はその後も入ることが続き、やがて痺れを切らした男性は思いきって自分からかけ直しをすることにしてみた。
相手が出たら、文句を言ってやるか。そう意気込んで電話をかけたものの、しかしどういうわけか、その番号には繋がらず「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」という、アナウンスが返ってくるだけ。
頻繁にかかってくる番号なのに、使われていないなんてあるのか。
虚を衝かれた気分になりつつその場は諦めた男性だったが、不可思議なことにその後もまた夜中になると同じ番号から着信が入ることが多々あり、ならば着信が入っている最中に電話にでたらどうなるだろうかと、今度はあえて電話がかかってくるまで起きていることにした。
そうして深夜。男性の目の前で携帯が着信を表示した瞬間、すぐに通話ボタンを押し携帯を耳に当てると、男性の耳に入ってきたのは人の声ではなく“コォォォォォ……”という、まるで荒野に風が吹き抜けるような、聞いていると妙に不安になってくる謎の音だけだったという。
この男性、電話から聞こえてきた謎の音を聞いた時、
――まさかこれ、ここで自殺したって人があの世からかけてきてる電話なんじゃなかろうか。
そんな考えが直感的に浮かんだそうで、もしそうであったなら、俺はあの世の音を聞いたってことになるのかもしれないなと、その部屋を引き払った後も半信半疑のままそう考えることがあるのだそうだ。
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