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「いやいやいや!音の出所を突き止めて、それでどーするんすか!?」
「もう〜人見クンたら、少しは静かにしてくれないかなあ〜」
引きずられるようにしながら、ほぼ無理矢理連れていかれるこの状況に、これが騒がずにいられるか!とばかりに俺は話し続ける。
合間に合間に聞こえてくる音に、聞こえないフリをしたくて声の音量はどんどん大きくなっていく。だけど悲しきかな。確実に音源に近づいているからか、音がかき消されることはなかった。
「ああ、ほらご覧。音の正体はアレだね」
不意に立ち止まり、そう言い切った部長。俺はあまりの恐ろしさに、顔を上げることが出来なかった。幸い、あたりに立ち込める霧のお陰で、足元すらよく見えてはいなかった。
ガラガラ、グシャ。ガラガラ、グシャ。
崩れような、組み立てるような。よく分からない音が繰り返し聞こえている。その音の大きさから、まだすぐそこまでは迫っていないことだけは分かり、肩に入れた力がほんの少しだけ緩む。
「こういうのはね、要は映画と同じなんだ」
そう近くはないとはいえ、徐々に迫り来る音に対して、なんとも思わない落ち着いた声色で部長は話し出す。
「そこに記録されたものが、繰り返し再生され続けているだけ。たったそれだけのことなのさ」
映画は撮影した映像で、リアルタイムで起きていることではない。心霊現象もそれと同じ。かつてそこであったことが、その場で繰り返されているだけ。部長の理屈はそういう事だった。
それがあまりに至極当然のように思えて来て、不思議と恐怖心も薄らいでいく。
「いいかい?人見クン。だから、ただの映像に注意を向ける必要なんてないんだ」
部長の声に促されるまま、ゆっくりと顔を上げる。少し先には、何かの塊があった。それが上下に動くたびに、ずっと聞こえていた音が繰り返される。
それは多分、元は人のカタチをしていたのだろう。ただ、何人かは分からない複数が合わさったソレは、もう到底人のカタチをしてはいなかった。
こちらに向かって進むたび、その内の誰のものとも分からぬ骨の一部が、ガラガラと崩れては落ちる。
「意識しなければ、アレは無害だよ」
ハジメは俺に、霊の存在自体を否定しろと言った。部長の理屈もまた、ハジメの解釈とは少し違うものの、本質的には同じだった。
いつもと違い、その場に遭遇しているのは1人じゃないからか、対処法は変わらなくとも妙に心は落ち着いていた。
ゆっくりと近づいて来ていたソレは、ある一定の距離で止まると、それ以上近付いては来なかった。
「本当に害あるものは、こんなモノじゃない」
映画だって、電源を入れなければ流れないだろう?それはただの記録の、心霊現象にも同じことが言えるね。じゃあ、この場合の電源って何だろうか?はてさて、これが始まる条件は?
まるでハジメのような、明らかに答えを知っているであろう口調で、部長は俺に問いかける。
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