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第一章
今朝、目覚めたのはカラスの鳴き声だ。最近では珍しくも無いが。
「お父さん、もう起きるの?・・チビの餌捕りやったら、まだ外は暗いのと違うん?・・」
チビと云うのは十日程からお店の倉庫で世話をしているツバメの雛の名前のことである。
「いや、さっきカラスが鳴きよったんや、あいつらが鳴いたと云うことは、朝が近いと言うこっちゃ。」
この部屋には、ベランダ側の掃き出し窓と北向きの窓がある。いずれの窓の雨戸も就寝前に閉じたままである。
今の季節だとあと数十分もすれば、それも戸袋の隙間から紛れ込んだ光がレースのカーテンを返して、ほんのりとその夜明けを表現してくれるはずだ。
「まだ4時過ぎやんか⁉ なんで今朝に限ってこんな早うに・・まだ眠たいのに・・なぁどこ行くの?」
家内はそう言いながらも、薄いかけ布団を顔まで被った。
「お前は寝っとたらエエから・・ワシはカラスの奴と勝負するねん!もう絶対入らさへんからな。」
「なんや昨日の事かいな、あれって・・ホンマにカラスの仕業やろか?・・」
まだ眠っていないのか?かけ布団越しに家内の声がする。
家内が云っている「昨日の事」とは、昨日の朝の出来事である。
時刻は午前九時前だった、一階の店舗で小売り店を経営している私は朝食を済ませ店を開けようと、いつものように居室の玄関扉を開けた。その時だった。
「なんやこれは⁉・・お母さんちょっと来て、エライこっちゃがな・・」
「エッツど、どないしたん!」
私の驚嘆の声に家内は慌てたのか片足だけにサンダルを引っ掛け、私が手を添えていた玄関戸を更に押し開いた。
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