45人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
飲み会
いつの頃からか会社が率先して社員の飲み会を推進するようになった。予算も組まれているらしい。『ノミニケーション』なんて言葉も使われるようになった。若い人たちのなかには、そうしたことを嫌がる人もいると聞く。私が所属する課ではそういう反対意見はないようで、ノミニケーションによって親睦を深めるということを上から求められる課長は、ほっとしているのかもしれない。
私もその会にはなるべく顔を出すようにしている。それはひとつの義務としてだけれど。
「鈴木さん、二次会行きましょう!」
元気よく誘ってくれたのは二年目になる男性社員だ。
「ありがとうございます。でも私はここで」
お局と陰で言われているのは知っているのに、年下のメンバーにも敬語を使ってしまう。
「えー、たまにはいいじゃないですか!」
元気で少々馴れ馴れしいのは年代特有のものなのかもしれない。韓流スターの誰かに似ているらしい彼の笑顔は、お酒がまわって赤くなっている。課内に数少ないこの年代の若者は女子社員に人気がある。
「無理言っちゃだめですよ! 鈴木さんは猫を飼ってるんだから」
少し酔っている女子が彼の鞄をひっぱった。
猫?
曖昧に笑ってそんな二人に会釈し、課長にお礼を言ってから二次会に迷う団体に背中を向けた。義務は果たした。それ以上は付き合う気もない。誘う方も社交辞令だ、わかっている。
駅へと向かいながらふと考える。若い人の言葉に猜疑心を持ってしまうようになったのはいつからだろう。
そう思ったのは私はもう若い人ではないと自分自身で思っていることの証明。
明仁はどう思っていたのだろう。
車内にはアルコールの匂いがする。誰もが軽く飲んで帰るのはこの時間。この時間の電車に乗るのは久しぶりだ。普段はもう少し早い。
車窓に流れるのは常夜と言われるこの街の灯だが、私の住む町に近づくときちんと暗くなる。それでも私の住む家は都内の庭付き一戸建てなのだ。明仁が大好きな家だ。
最初のコメントを投稿しよう!